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【理絵子の夜話】圏外 -02-

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 確信、いや予感というべきであろう。その筋の用語でプレコグニション(precognition)と呼ぶ。但し、この語は科学的に、特に日本では公的に認められてはいない。いわゆる“超能力”とひとくくりにされる、特異能力の一つだからだ。
「山奥だよ~。あたしのいとこのおじさんがやってるんだけど、真夏には鮎が下流に行って客が減るから、格安だって。どうしたの?」
 深刻な顔の理絵子に田島が尋ねる。
「え?あ、“どえりゃぁ”遠いなぁって」
 同じくインチキ名古屋弁を使い、ごまかし気味に理絵子は応じた。二つの“予感”は以下の通り。
・この合宿で事件が起きる。
・事件の到来は不可避である。
“予知した”では、ご厚意を断る理由にならないだろう。すなわち、田島が合宿の話をその親類に持ち込んだ時点で、“起こるべくして起こる”こととなったのだ。
「ちょっと待っててね」
 理絵子は席を立つ。この予感にどう対処しようか、頭の整理をするのと。
 具体的にこの場所にどう行くのか調べるためだ。
「土崎」(つちざき)
 理絵子は男子生徒に声を掛ける。机にかじりついて、回路図だかなんだか、ノートに線を引き回している小柄な少年。
「あ、黒野さん」
 振り向いた少年の顔がパッと明るくなる。まるで雨上がりの日差しのよう。
 反して、周辺の、特に女子生徒の表情が曇るのを理絵子は感じ取る。彼は自他共に認める“鉄道おたく”であるが、今もそうであるように、常人にはパッと見理解しがたい行動を独りでやっているので、多く女子には気味悪がられている。ちなみに、今彼が描いていたのは、模型用の線路の配置図であるが、理絵子を含め、それがそれであると知る者はこのクラスにはいない。
「調べて欲しいんだけど」
「いいですよ」
 理絵子はメモを渡した。彼には、こうやって“いつ、どこに、どうやって”行ったらいいか、調べてもらうことがままある。確かに傍目は気持ち悪いのかも知れないが、彼にはそんな底意はないし、何よりヘタな駅員より詳しく判りやすく、しかも素早く調べてくれるので、理絵子的には重宝している。
「すごい奥ですね」
 彼はメモを見て言いながら、時刻表をドンとばかりに机の中から引っ張り出した。冒頭部分の地図を見、次いで恐るべきスピードでページを繰る。B5サイズで1000ページを越えるこの分厚い代物を、常日頃持ち歩いているのである。ちなみに、後から聞いた話であるが、“路線図のついでに”地図もよく見ることになるので、住所だけでどの辺か大体判るようになるという。
 待つこと30秒。時刻表後半部にあるびっしり並んだ小さい数字を、彼は拾った。

(つづく)

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