« 【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -5- | トップページ | 【理絵子の夜話】圏外 -02- »

2019年5月 4日 (土)

【理絵子の夜話】圏外 -01-

←理絵子の夜話一覧次へ→

 理絵子(りえこ)は学校において文芸部に所属している。
“オリジナル作品の製作を通して、創作の喜びと大切さを知る”という、ご大層な活動目的が掲げられているが、その実いわゆる“漫研”そのものである。しかし、中学校は原則マンガ持ち込みであって、研究と称しているとはいえ、放課後マンガをカリカリ描いているのは如何なものかという話があり、オリジナル作品は“絵物語”の形で発表することにしている。すなわち、ページの下半分に小説文体を配し、上半分に場面に関するイラストを描いた冊子だ。これを夏休み中に合宿を行って製作し、文化祭で発表する、というのが、最近の流れになっている。以前は部員個々人で製作していたようだが、実際問題“創作”とは大変なエネルギーを要す作業であり、質のばらつきも目立つことから、“部として一作”が定着して久しい。ちなみに部員は女子ばかり。これは、添付されるイラストが少女マンガ風で恋愛をテーマにしたストーリーが多いことに起因する。男子には一見して入りづらいらしいのだ。
「りえぼー部長」
 休み時間。そのあらすじを考えていた理絵子の背後から声がかかった。
「それって微妙にフレンドリーで失礼だよ」
 言いながら、しかし笑顔で振り返る。理絵子は“黒髪ロングストレート”の娘であって、振り向く速度に追いつけなかった先っぽが遅れてくるりと舞う。じっと見つめる瞳が光るが、彼女を見る者はその容姿もさることながら、その瞳とその黒々とした輝きにまず惹き付けられる。ちなみに、髪は校則の関係で、背中で束ねてりぼんで緩く縛ってある。
「あはは。あのね。合宿の場所決めてきました“だでよ”」
 インチキ名古屋弁と共に、笑いながらメモを出すのは、部員で隣のクラスの田島綾(たじまあや)。小太りで眼鏡を掛けた陽気な娘である。ちなみに理絵子はこの7月1日から文芸部の部長だ。これは、受験を控えた3年生が6月一杯で引退となるにあたり、部長の座が2年生に引き継がれたことによる。この際、普通なら、部長選出は部員同士の推薦を経て多数決を取るが、今年は、“学級委員やってるし”、ただそれだけの理由で、理絵子が部長に祭り上げられた。
「え、もう?どこ?」
 理絵子はメモに手を伸ばす。合宿の場所決めは毎年頭の痛いところだ。学校からの補助と宿泊料金の折り合いの他、人数が年々で違ったり、ドタキャンする者がいたりで、翌年断られ、というパターンが多いのだ。実際、昨年は隣県の民宿に3泊したが、「飯がまずい」の一言が主人の耳に入り、ブラックリストに入れられている。
「ここ」
「!」
 メモを受け取った途端、理絵子は二つの“ある感覚”をも受け取る。それは要するに第一印象なのだが、彼女の場合、一般的な第一印象とは、対象の把握度、正確性が大きく異なる。

(つづく)

|

« 【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -5- | トップページ | 【理絵子の夜話】圏外 -02- »

小説」カテゴリの記事

理絵子のスケッチ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -5- | トップページ | 【理絵子の夜話】圏外 -02- »