【理絵子の夜話】圏外 -08-
ロータリーをぐるりと回って彼女らの待つバス停に付け、前のドアを開ける。
「いやぁどうもすいません」
運転席からペコペコする。“1日3本”の理由がよく判る気がする。ちなみに客は彼女たちだけであり、バスもシートに破れがあったり、壁紙をテープで補修してあったりと、年代物だ。広告なんか自社の宣伝と子供達の書いたバスの絵。
と、そこで彼女たちは気付く。この熱気はひょっとして。
「すいません、冷房って」
「申し訳ない。10人以上乗らないとつけちゃいけないんですよ」
「え~っ!」(8人一斉)
「頭下げるしかないんですけどね。見ての通りボロですから。経費節減ってヤツです。でもそんなに暑くないですよ。窓開けて、渓谷の風を感じながら、乗って下さい」
「あ、それちょっとかっこいいかも」
「なんちゃって」
「あらら」
騒音と、濛々たる黒煙を吐きながら、バスが発車する。駅前広場を出るとすぐに結構な上り坂だが、パワーがないらしく、煙ばかり吹いて速度は上がらない。エコロジーの時代に真っ向から異を唱えるような車輌である。
信号停車。
「君たち、どこまで乗る?」
運転手が話しかける。運転席横の注意書きには“走行中は運転士にみだりに話しかけないで下さい”とあるが、逆は良いのか。どっちにせよ、えらく“軽い”運転手ではある。
理絵子は行程メモを見せた。
「……この宿なら真ん前につけてあげるよ」
要するにバス停から宿までは距離があるが、バス停にはこだわらず、宿の至近でバスを止めるというのだ。
「いいんですか?」
「サービス第一ですから」
「居眠りチクったりしませんけど?」
「ばれちゃしょうがないな」
バスが走り出す。クルマの多い街道を横切り、川沿いの細い道に入る。するとなるほど、風が涼しくなった。
バス停をいくつも通るが誰も乗らない。彼女たちの貸し切り状態。
道を行くクルマ自体が少ない。すれ違ったのは5台。後ろから来て抜いていったのが2台。朝早いということもあるかも知れないが、それにしても少ないという気がする。最も、理絵子の家は都内である上、旧五街道の一つ“甲州街道”に近く、24時間車が途切れることがないので、余計に少なく感じる。というのはあるかも知れない。
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