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【理絵子の夜話】圏外 -06-

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「え?これっていいの?」
 足を踏み入れた瞬間、中井が車内のシートを指差して言った。
「いいの。ハイ座って座って。えーと、何だっけ」
 理絵子は、作ってもらった行程表を、リュックから取り出した。

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(クモハ115-301車内但し2019年)

『車輌は通勤タイプとボックスシートのごちゃまぜ配置になっていますが、別に普通の切符で乗って構いません。特別料金は取られません。ボックスシートの方がお喋りも出来るし楽しいでしょう。ちなみにこういうのをセミクロスシートと言います。トイレは3両目と6両目についているはずです』
 理絵子は読み上げた。彼をして『女の子はえてして電車に無知だから』と、やたら細かく書いてもらった行程表である。中井の『ここが終点』発言等から考えると、このくらい細かくてちょうど良いようだ。ちなみに、この路線の真の終点は遥か名古屋である。東京発のオレンジ色の通勤電車は多くここが終点であり、ここから先は別の電車が走っている、というわけだ。これは客の数が大幅に違うためで、無論、列車本数も大きく異なる。
「へぇ~」
「セミ苦労しろ?なんかいいね、これ」
 女の子達は8人で2ボックスを占めた。
『発車までの待ち時間含め、目的地まで20分ほどあるので、朝ご飯食べるならこの中で済ませましょう』
「はーい」
 めいめいコンビニおにぎりのビニールを切り裂く。程なく、隣接する私鉄駅に電車が着いたのだろう、乗り込むハイカーが更に増え、けっこうな数の客が立った。登山というのは概して朝が早い。
 ピロピロという発車チャイム。
 ドアが閉まり、電車が動き出す。その振動音には、いかにも鉄の塊と言おうか、ドンとかゴンとか言うごつい音を伴う。サスペンションをギシギシ言わせながらポイントを渡り、加速する。
 加速後程なく車窓は急激に山深い様相となり、風景を楽しむ間もなく、トンネルに突入する。
 走行音が反響し、車内は騒音の渦。
 ……しかもなかなかトンネルを出ない。
「長い!」
 今里あかねが言った。
「都県境のトンネルなんだって!。次の駅まで10分!」
 理絵子は言った。オレンジの電車も、併走の私鉄もそうだが、東京方向に向かう分には、隣の駅まで1分かそこいら。隣まで10分など、彼女たちの“常識”には存在しない。
「10分!?10分もトンネル!?」
「トンネルはそうでもないけど駅がないの!」
 5分ほどでトンネルは出た。ここはもう都内ではない。

(つづく)

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