【理絵子の夜話】圏外 -05-
跨線橋の階段を下りる。プラットホームを少し歩くと、なるほど、ホーム上に石像がある。天井に達する高さを持った、大きな天狗の頭の像だ。長い鼻を突き出し、東京方面を睨み付けている。
(じろっ)
「部長質問~」
2年の中井茂美(しげみ)が手を挙げた。長い髪の娘で“赤毛のアン”よろしく、頬のそばかすを気にしている。
「なんでございましょう」
「東京行きは1番線なのになぜ4番線へ来たのでしょう」
「それはこっちに行くからです」
理絵子は東京と逆方向を指差した。
「え?こっち走ってるの?ここ終点じゃないの?」
「オレンジのヤツはここが終点。で、こっちは“海もないのにカイの国”、の方向」
「へぇ~。こっちにも電車走ってるんだ」
中井は感心したように言った。背後の1番線に、そのオレンジ色の東京発が到着する。通勤型の10両編成。朝ラッシュにはこれが身動き取れないほど人で一杯になる。土曜日であり、逆方向なので、さすがに一杯ではないが、客自体は多い様子。
ドアが開き、ざわめきが吐き出される。見るからに山岳ハイクの旅客が多い。彼らは更に山奥へ向かうため、こちらへ乗り換えてくるのだ。
程なく4番線は登山靴やステッキ、リュックといった装備の熟年層で一杯になった。
「なるほど混んできた」
放送が入る。4番線に電車が来る。
視界左方、留置線から電車が動き出す。東京行きとは色も形も異なる。編成も“6両しか”つないでいない。正面にドアが付いた武骨なデザインであり、ドア上の幕にはただ“普通”。
ゆっくりと目の前にやってくる。それは氷菓子の“アイスキャンデーソーダ味”を彷彿させるツートンカラーであり、ボディ側面は歪んでベコベコ。おまけに床下では何やらファンの類であろうか、“ぐわーん”とばかりに機器が轟音を上げており、熱風が、車体とホームの隙間から、モワッと吹き上がってくる。
「ぼろくさー」
「うるさー」
(ぐわーん。なに?形式が違う?こまけえこと気にするな)
女の子達から忌避の声。ただ、理絵子の知る限り、オレンジの方だって自分たちが生まれる前から走っており、発車時やブレーキ時には、“ぶ~”という耳障りな音が床下から聞こえる。
ドアが開いた。
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