【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -10-
“福島のピカ”
黒板に大書きされたその文字を、レムリアは理解出来なかった。
ただ、諏訪君に対する最大限の揶揄であることはすぐ判った。
なぜなら。
「あ……あ……」
諏訪君が浅く短く呼吸し、咳き込みはじめたからである。喘息の発作だ。
・喘息で呼吸困難等の「発作」を起こした時の対処
1.医師から処方された所定の薬があればそれを使う
2.壁にもたれさせるなど楽に呼吸がしやすい姿勢をとる
3.学校なら保健室、一般的には病院へ
4.チアノーゼや意識混濁は危険兆候。1.2.3.全て実施
5.何か飲める状態であれば紅茶がよい
「薬は?発作に備えた薬は持ってないの?」
訊くも、彼は目が中空の一点に止まって小刻みに震え、恐らく聞こえていない。
「誰か保健室へ走って!。運ぶから手伝って!」
カバン放り出して叫ぶ。が、みんな自分たちを遠巻きに見るだけで何らアクションを起こさない。
レムリアは眉根を吊り上げた。
「……彼を殺す気!?」
とりあえず腰を下ろさせようとする。が、彼は小柄とは言え男の子である。しかも発作によって身体はこわばっており、少女の力では無理がある。
そこへ。
「相原さんどうした?大声が聞こえたけど」
平沢であった。
「諏訪君が発作起こした。悪いけど保……」
諏訪君が空気嚙むように口を動かし、その口元に持って行こうとする手指に紫色の変色。
チアノーゼである。こうなると保健室では手に負えない。救急車を呼んで処置を待つとかもどかしい。
最速の手段は一つ。
ウェストポーチに手を伸ばす。取り出したのは一見、白銀色の耳栓。
中身は無線機。しかも“人体に装着していては起こりえない変化を捉えると緊急信号を飛ばす”。
その機能を使おうというのである。窓から投げ捨てればよい。突然の速度と高度変化。異常の条件を満たす。
問題は自分の力で外まで投げられるか。投げると言えば日本へ越す前、フィアンセがアムステルダムに来た際、暴漢へリンゴを投げつけた姿が印象深い。野球の投法。
野球。
レムリアは平沢の意識にアクセスした。
テレパシーである。この種の力を彼女は使いこなす。
彼の意識にある遠投フォームをなぞり、真似する。振りかぶって、足を上げ。
開いてる窓に向いて。
屋外へ投げる。
指先がブンと音を立て、血が集まって痛くなり。
そして耳栓……正式名称PSC(Psychology-direct-reflection Synchronization Control-unit)はシュッと風切り音を立てて指先から発射され、春風の校庭へすっ飛んで行った。
運動エネルギを乗じた円弧の一部を成すように舞い踊る髪の毛とスカートの裾。
「すげぇ……」
呆然と言ったのは他ならぬ平沢。
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