【理絵子の夜話】圏外 -13-
バスは川べりの橋の前に止まった。橋のたもとには、“旅荘塙に行くには橋を渡れ”旨、看板が立っている。バス通りとはここでお別れ。
「ありがとうございました。とっても楽しいバス旅でした」
理絵子は紙幣を手渡しながら言った。距離と人数があるので、結構な額になり、料金箱に紙幣はNG。
「こちらこそ。久々に面白かったよ。帰りも会社に連絡くれれば、当日の担当にココに止めるよう言うよ。あーこんなにいらない」
運転手は500円返してよこした。
「え?」
「君たちは100円の回数券を5冊買いました」
1冊当たり1枚分、すなわち100円サービス。5冊で500円サービス。
「どうもすいません」
「いいえ。良かったらオバケ情報教えてね。会社のホームページからメール出せるようになってるから」
「は~い」
バスが走り去る。手を振る彼女たちに、運転手はクラクションを2回鳴らして応え、カーブの向こうに消えた。
静かになる。橋の下のせせらぎだけ。
「さすがに涼しいね」
「これだけ山奥だとね」
「あとどのくらい?」
理絵子は田島に訊いた。
「歩くと10分くらいかな。いつもは車で来るから見当つかない」
「まぁ10分ならいいか」
「出発~」
川を渡ると車一台やっと通れる道である。アスファルトもひび割れてボコボコであり、もう何年も修復していないのが一目瞭然である。両側から樹木が覆い被さり、木のトンネル状態。
「確か“赤毛のアン”にこんなシーンがあった気が…」
竹下のその台詞に、そばかす娘の中井がすかさず反応する。
道の真ん中に立って。
「まぁ、なんて素敵なのかしら。私、ここに名前を付けたわ」
「現実はそう素敵でもなかったり……」
中井の台詞を今里が遮った。
立ち止まって行く手を指差す。道路を横切るロープ。
否、ロープ状の生命体。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】城下 -09-(2023.11.25)
- 【理絵子の夜話】城下 -08-(2023.11.11)
- 【理絵子の夜話】城下 -07-(2023.10.28)
- 【理絵子の夜話】城下 -06-(2023.10.14)
- 【理絵子の夜話】城下 -05-(2023.09.30)
「理絵子のスケッチ」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】城下 -09-(2023.11.25)
- 【理絵子の夜話】城下 -08-(2023.11.11)
- 【理絵子の夜話】城下 -07-(2023.10.28)
- 【理絵子の夜話】城下 -06-(2023.10.14)
- 【理絵子の夜話】城下 -05-(2023.09.30)
コメント