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【理絵子の夜話】圏外 -20-

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 田島が言う。
「三つ叉沢に行っちゃいけないっていつも言ってたのは、単にそこが深いから危ないっていう意味だけじゃなかったんだ」
「そういうこと。でもみんな、おばあちゃんの話聞いてくれてありがとうね。“肝試し”って、大抵おもしろ半分なんだろうけど、その実、人の“死”を弄んでることだと思うのね。最近若い人が来たかと思うと『三つ叉沢はどこですか?』ばかりでね。おばあちゃん、若いあなた達が来るって聞いて疑心暗鬼になっててね……」
 女将さんが恐縮したように。
「いいえ。よく判りました。その沢の方へは行かないようにします」
「ごめんなさいね。そうそう、あとでとっておきの出してあげる。作業はここ使ってね。食べながらやっていいよ。ちょっとワサビ採ってくるから。綾ちゃん、留守番頼める?父さんもうすぐ戻ると思うし」
「は~い」
 雰囲気を戻そうとしたのだろう。女将さんは声のトーンを変えて言うと、厨房の勝手口からサンダルを突っかけて外出した。
「本物、だったわけだ」
 大倉が言った。
「おいお前まさか……」
「ううん。確かに怖い話は好きだよ。でも本物だってなら話は別。素人の本物相手は身の破滅、これ定説」
「そういや、りえ部長さっき何言ったんですか?」
 竹下が訊いた。真言のことだ。
「あれの文言だよ」
 理絵子は食堂隅に貼られた御札を指差した。
「ある程度勉強しておかないと、そっち方面の話リアルに書けないでしょ」
「なんだそういうことか。あたしはまたあのおばあちゃん急に黙ったもんだから、部長がエスパーかましたのかと……」
「残念でした」
 理絵子は舌をちょろっと出した。
 と同時に、自分たちの会話のテンポが、いつものパターンに戻って来ているのにホッとした。
 これがいつもの自分たちだと思うし。
“怖い”気持ちは“怖い”エネルギーを引き寄せる。
 経験上。

(つづく)

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