【理絵子の夜話】圏外 -26-
と、そこで主人氏が勝手口を開ける。
「言えるかいそんなこと。最初っからこの子ら疑ってるみたいなもんじゃねーか」
主人氏曰く、鮎の時期ではない今頃にこんなところに来るのは、憑いた悪霊に吸い寄せられて来たに相違ない。「お祓いをさせろ」と言われたと。
少女達は顔を見合わせた。悪霊憑き?私たち……
理絵子はその向坂なる人物の物言いが気になった。
理屈に合わないのだ。霊的世界は非科学として否定されてはいるが、体系自体は論理的なのだ。それで行くと、非業の死を遂げた女の子達に、悪霊が近寄って行くというのは、何か噛み合わない。
新約聖書だったと思うが、イエスの悪魔払いを見た偽善者が、『お前にそんなことが出来るのは、お前が悪魔の手先だからだ』と罵倒するエピソードがある(作者註:福音書にある)が、それに近い。
“彼女”たちが、殺された怨嗟を抱えた悪霊的存在であるとして、悪霊憑きがなぜ悪霊の住処……塚を壊す?
「オレはどうにも気に食わないんだ、あの拝み屋。いいよ、午後はこの子ら川遊び行っちゃって留守にってことにすりゃいい。あんな芝居がかったお祓いとやら、悶々やらせるこたない。カネ払って遊びに来て下さってるのに失礼だ」
「それは……」
女将さんの表情が曇る。それはそうだが、向坂に刃向かうと後々町内で立場が悪くなる、そんなところか。
「あのう…」
理絵子は口を挟んだ。
「差し出がましい物言いかも知れませんが、部長の私が代表で、ということでどうでしょう」
「え?でも……」
「そっち系は免疫がありまして。かけまくも かしこみ すめみ おんやかむ いざなぎのみこと(掛巻も畏み皇御祖神伊邪那岐之命)」
「そういえばそんな言い回し聞いたなぁ」
主人氏が言った。この手の真言は軽はずみに使うものではなく、乱用防止の観点からは明確に書き留めるには向かないが、理絵子が口にしたのは『高天原のみなさまコンニチハ』に相当する部分であり、問題はあるまい。
「でも、時間掛かるし……」
「構いません。聞き流してストーリーでも煉ってます。この子らとやってると骨抜きにされるんで」
「ここでそれ言うかこの部長は」
理絵子は夫婦にニコッと笑って見せた。実際問題、お経の親戚をメンバーに聞かせるのは苦痛である上に。
時間の無駄だ。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -19-(2023.05.17)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -18-(2023.05.03)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -17-(2023.04.19)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -16-(2023.04.05)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -15-(2023.03.22)
「理絵子のスケッチ」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -11・終-(2022.04.30)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -10-(2022.04.16)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -09-(2022.04.02)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -08-(2022.03.19)
- 【理絵子の夜話】禁足の地 -07-(2022.03.05)
コメント