【理絵子の夜話】圏外 -25-
「はっはっは。で?ウチのは?」
女将さんのこと。
「あ、ワサビ取りって」
「そうか。じゃぁちょっと仕掛けをつくるわ」
「は~い」
主人氏は勝手口から出た。
「そうめんそうめん~」
「いいから描いてね」
「そう言う部長殿はどこまで書いたよ」
「手書きでそんなに早く書けるわけないでしょ」
「エピソードだけ羅列すりゃいいんだって。小説化はあと。どうせパソで合成すんだから。絵に合わせて適切に文章化してくらはい」
「……判ったよ」
書き物をする音が続く。シャープペンシルであり色鉛筆であり。
「この水彩色鉛筆っていいよな。消しゴムで消えるし」
「汗垂らすとにじむから気をつけようね」
サンダルを突っかけて歩く音が聞こえ始め、次第に近づいて来、
女将さん帰宅。
「あ~あ」
溜め息。
「どうかしたの?おばちゃん」
田島が尋ね、理絵子は書く手を止めた。
ちょっと気になる。
「いやあのね」
女将さん曰く、昨晩何者かが沢に侵入、おばあちゃんの話した塚(慰霊碑)が荒らされており、その際踏みつけられたかワサビがダメになっていたという。
「連中、沢の真ん中まで行こうとしたらしいのよ。そうすると川を歩いて行くしかないわけじゃない。それで……」
流れの中に自生していたワサビが。
「しかもさ。塚の辺りで花火か何かやったらしいのよね。だからもう向坂(さきさか)さんがカンカンでさ」
「それで町内会……」
田島が言った。向坂なる人物は陰陽師であり、その塚の“霊的な”管理をしているという。
ゆえに冒涜行為に怒り心頭。町内会役員を集めて再発防止の徹底を、というところのようだ。主人氏はそれに参加していたのである。
「そう。特にウチなんか宿じゃない。泊める者に絶対行かすなと。そういや、あとで向坂さん来るって父さんから聞いた?」
「え?……い~や?全然?」
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