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【理絵子の夜話】圏外 -28-

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 田島の勢いが急落する。
「りえ……」
「半ダース」
「3ダース!?」
「ちがう!半分ダース!6本」
「ちぇ」
「ほら、綾っぺ」
「は~い」
 マックスコーヒーで買収された田島は主人氏を追い、しぶしぶ玄関から出た。
「しかし部長ってそっち方面詳しいみたいですね」
 竹下が言った。
 理絵子は苦笑した。この方面、そういう経緯から独学の部分もあるが、一般向けにはもう一つの理由の方を話している。
 すなわち。
「どうしてもホラ。父親の仕事が仕事でしょ。仏様がついて回るわけよ。母方の実家が震え上がっちゃってさ。南無阿弥陀仏。否が応でもお勉強してしまうという」
 理絵子は言った。『“死”が日常茶飯事になる。これは怖い』という父親のつぶやきが強く印象に残っている。
「え?仏像持ち歩くんですか?」
 竹下が目を円くした。
「バカ。お亡くなりになったお方のことだよ。死体。シカバネ。ムクロ」
「きゃー!」
 生々しい大倉の台詞に、竹下が耳を塞いで顔を背ける。
 が、その動作でテーブルに身体をぶつけ、麦茶の入ったグラスを倒した。
 テーブル上に麦茶池。
「うわお前バカ」
「絵が、絵が~」
「綾~!」
 今里が田島を呼ぶ。彼女たちは慌てて描きかけの絵やレポート用紙を引っ込めた。
 ちなみに彼女たちが使っている水彩色鉛筆は、“水彩”の文字からも判るように、水彩絵の具的な一面も持っており、水分に触れると溶ける。
 飲み物をこぼすのは致命傷なのだ。
「どうした?」
 田島が勝手口から顔を出す。
「ごめん、こぼした、雑巾」
「ああ、はいはい」
「あ~滲んで行くよ……」
「見ろ、絵がゴミのようだ……」
「言葉を慎みたまえ。君はりえ部長の前にいるのだ」
「それじゃ自分同士」
 描き直し。なお、彼女たちの台詞の2,3は、著名なアニメからの援用である旨付記しておく。

(つづく)

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