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【理絵子の夜話】圏外 -30-

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 理絵子は避けていた。やり方は簡単。全然関係ないことを考えればよい。それこそストーリーでも練ればよいのだ。
 しかしそれでは“探られてると判っている”ことが、相手に判ってしまう。
 せせらぎの音に意識を向ける。音からイメージしたせせらぎの映像を心の中に置いておく。ツマラナイから川の音を聞いています……。
 終わった。
「口を開けなさい」
 某が、人の形に切った白い紙切れを差し出す。
 ヒトガタ、である。霊的な依り代。古代は人形であり、更に太古は生身の人間による生け贄であった。
 理絵子が口を開けると、某はヒトガタを理絵子の舌に触れさせた。
 痴漢にでも遭遇したような不快感。
 ヒトガタを何やら箱に収める。
「面(おもて)を上げなさい」
 これで終了である。理絵子の中の“汚れ”がヒトガタに移り、箱の中に封じた。
 よって理絵子は顔を上げて良く、口を聞いても良い。
 理絵子は瞼を開く。“疚しいところがある人にはブラックホールに見える”と言われる瞳孔拡大状態の目で真っ正面から某を見てやる。“たらふく肉食ってるだろおっさん”……そんな印象の男である。脂が滲み出て来るというか、既に滲んでいるというか、ギラギラした印象。陰陽師と称し、超感覚による探りを入れてきた辺り、確かにそれ系の力はあるようである。しかし、同じ力を持つにしても、どっちかというと“餓鬼”に近い。
 おっと見透かされる。
「ありがとうございました」
 理絵子は神妙に頭を下げる。ここまで一連のお祓いのシーケンス。自分の知らない流儀であるが、まぁ、いろいろあるのだろう。ちなみに、生け贄の時代、悪霊を移された生け贄は、当然、悪霊もろともそのまま殺された。
「うむ」
 某は頷き、次があるとかで、それでもしっかりと鯛と酒と祈祷料は持って、そそくさと去った。
 高級車の走行音が聞こえなくなる。
「はぁ。堅苦しい」
「申し訳なかったな」
 女将さんと主人氏が続けて言った。

(つづく)

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