【理絵子の夜話】圏外 -37-
「巫女だねぇ」
「だろ?俺の目は間違いなかった」
夫婦してしげしげと眺められる。古来巫女は少女が担ったが、理絵子はどちらかというと幼い顔立ちの娘であり、純白の装束に流れる黒髪と、そして何より漆黒の瞳が物を言って、巫女装束は確かに似合う。超感覚の有無以前の問題。
「そうですか?」
理絵子は照れた。
「これ腹に一物ある奴見たら逃げるぜ」
「うん、悪い奴お前直視出来ない。正月のバイト巫女とはひと味違う」
「お前実は巫女だろ」
「あのね」
「でも……同じ供養祭やるなら、向坂より嬢ちゃんだな」
主人氏が言った。
「えっ?」
「いやいや、やれって話じゃないよ。でも、神々しさという点で全然違う。それに祝詞(のりと)なんかも知ってるようだし」
「やって欲しいって聞こえるよ」
女将さん。
「あの……」
「はっはっは。冗談。さ、もういいよ。いや~いいもん見させてもろた。さぁ、シャブやるか」
主人氏は上機嫌で降りて行く。なお、“シャブ”とは覚醒剤の隠語ではなく、しゃぶしゃぶのことであるので念のため。
「脱いだらおいでね」
女将さんが続く。
「私、脱いだらひどいんですってか」
「それ今日2回目」
理絵子はクールに言い、脱衣にかかった。
装束を畳み、作業をキリのいいところまで進めた後、階段を下りて行く。食堂には、お祓いの“売約金”であるしゃぶしゃぶセット。
「今日の釣果」
「部長っておいしいなぁ」
「じゃあ来年の部長は若井と」
「なるのはイヤ」
女将さんが手をパンパン。
「はいはい。座って座って。じゃぁ部長さんは特等席」
鍋直近。
集中する羨望の眼差し。
「私の売り上げに何か質問でも?」
「いえ。ありません」
と、主人氏が卓上に一升瓶をドン。
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