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2020年2月

【理絵子の夜話】圏外 -44-

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 で、あるならば。
「いーや。推定有罪でしょ。逆に言うと、天下御免で塚まで入れる」
 理絵子は言った。
「は?」
「りえぼーそれどういう」
「こうなった以上、私たちが塚に立ち入ったところで、最早当たり前ってこと。そこを逆手に取る」
 7人はお互いを見合ってちょっと考えた。
 それはすなわち。
「塚へ行く?」(7人一斉)
 理絵子は頷いた。
「え、でも、それって」
 心配の内容、幽霊さんが出るのでは。
「大丈夫。向坂が荒らして何ともないのを私たちは見た。むしろ冒涜しているのは向坂の方。塚って仮でも彼女たちの墓よ。ここの土地の人たちが過去を謝罪し、せめても安らかにって願いを込めたモニュメントよ。それ使って人欺して金儲けってこれどうよ」
「部長迫力ある……」
「今、あの塚に正々堂々と入れるのは私たちだけなわけ。どうせあいつは今夜も来るよ。お金せびり取るには、私たちという犯人が必要だからね。ちょうどいい。そこで渡り合おうじゃない」
「でもおばあちゃんが」
 田島が眉根を曇らせる。
「大丈夫」
 理絵子はスパッと言った。
「そ、その自信はどこから……」
「ご理解頂くようにお話しするよ。今大丈夫かな」
 と、階下で女将さんの声。
「おばあちゃん階段はちょっと……」
 おばあちゃんが寝床から起き出した上、2階へ上がってこようとしているようである。
「こちらから参ります」
 理絵子は言った。
 階段を下りる。
 おばあちゃんと目を合わす。表情は穏和だ。お歳だが、聴力の衰えはないという話なので、自分たちの話は十二分に聞こえていたと思う。
「お聞きになった通りです」
 理絵子は単刀直入に言った。
 おばあちゃんは静かに頷く。
「あんたがそう言うなら、そうだろうよ」
 意外な返事である。更におばあちゃんは一呼吸置いて。
「あんたは、普通の子と少し違う。あんたが巫女装束を着ているのを見せてもらった。まるで昔を見ているような気がした。卑弥呼や壱与(とよ)の御姿(おんすがた)をあんたを通して見た気がしたよ。あんたなら、いや、あんただからこそ、出来るのかも知れない。あんたは遣わされたんだ。あたしゃそう思う。おん、まいたれいや、そわか……」
 おばあちゃんは一気に言うと、幻の何かを見つけたように、理絵子に向かって震える両の腕を伸ばした。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -43-

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11

 理絵子は自作自演の一部始終を夫婦に話した。予感した“事件”とはこれのことだったのか。
 否、最初予感したものとは様相が異なる。明らかに、当初より内容が変化している。
 その要因と考えられるものとして、自分たちがおばあちゃんの忠告に従ったこと、これは恐らく大きい。
「詐欺です。霊感商法と何ら変わりありません」
 結論を理絵子は言った。
「そんな……」
「ホラ見ろ。やはりインチキだ」
 主人氏が腕組みして胸を張る。
 ちなみに、霊感商法は“霊感がある”と見せかけて行うものだが、この某の場合、なまじ持っているものだから尚タチが悪い。
“超能力詐欺”とでも言うべきか。困るのは日本の警察ではその辺の検証・証明システムを持たないことだ。
 と、この辺りから、宿に電話がひっきりなしにかかってくるようになる。
 その殆どが無言電話か、老年と思われる人物からの悪口雑言である。
 内容は“旅荘塙は悪霊憑き”。
 某が集落じゅうに吹聴しているか、或いは搬送先の病院で喋った内容が口コミで広がっているか。
 この手のウワサは否定するのが非常に難しい。“先生”がそう言っているのだ。こちらの言い分は最初から全部ウソ。狼が来るぞ、だ。
「ウチの神様に天罰食らったヤツが何をぬかすか」
 主人氏は電話線のプラグを壁から抜いた。
「君たち気にするな。何か来ても追い返す」
 主人氏は玄関に弁慶の如く仁王立ち。
「作業してていいよ」
 言われて、ハイと2階に上がる。とはいえ、この状況では落ち着いてイラスト描いていられるわけもなく。
「どうするよ」
「私たちのせいと言えば私たちのせい」
「でも無罪なわけで」
「けどさ」
 自分たちに泥を塗られた一面もある。だから、自分たちの手でなんとかしたい。メンバーの意志を理絵子は感じた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -26-

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 丘の上の公園に男が二人。青い作業服を着た眼鏡の男と、ひょろりと背が高く、丸刈りのジャージ姿。
 眼鏡の男は相原学であり、ジャージは中学校の男子生徒で平沢ある。相原より背が高い。
 二人は同じように空を見上げ、身構える姿勢である。
 そこを突風が襲う。吹き飛ばされる勢いであり、二人は身を伏せてやり過ごす。
 風が収まる。
「ほ、本当に風が来ました……じゃぁ」
「また、例の公園にいました、でいいよ」
 起き上がろうとする二人の背中に重なる影。
 レムリアと諏訪君である。
「あらダンナ様」
 レムリアは相原を見て言った。その言葉にバネ弾ける勢いで平沢が目を向ける。
「行方不明が好きな妻殿だ。で?彼の容態は」
「ご覧の通り。パニックによる発作だから。薬飲めば落ち着きます」
「諏訪、大丈夫か……みんな心配したぞ」
 平沢が声を掛ける。
「あ、うん。ごめん……それと、その、ダンナ様まで……」
「気にしない。授業中逃亡2回目なら呼び出しだわ。最も、保護者を呼べという別の保護者の声があってね」
「保護者?」
「歩きながら話すよ。諏訪君は歩けるかい?」
「ええ大丈夫です」
「あ、オレ電話しなきゃ」
 平沢が持たされた携帯電話で担任と話す間に“保護者”の説明。
「簡単に言うと、ウチの嫁コが“放射能”を教室に持ち込んで汚染したと。謝罪しろと。そして出てくるな引っ越せと」
 相原の説明に諏訪君がびくりと震えて立ち止まる。
「大丈夫。無知な物言いさ。ちゃんと説明するつもりだから。理責めしたらロジハラだと言われそうだが論破しておくべきはしておかないと。一つ明らかにしておくが諏訪君になんの責任もないし、何も言われる筋合いはない。間違っているのは相手。いいね」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -42-

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「帰れ帰れ!」
 主人氏が塩を某にぶつけた。
「ご託宣はたくさんだ!村八分構うもんか!このインチキ拝み屋め」
「なにっ!」
 某の表情に逆上の色が浮かんだ。
 主人氏に向かい、勢い付けて振り返る。
 その時。
 衣冠束帯の“冠”が、神棚に触れた。
 衝撃で、榊の入った小さな花瓶が、某の首筋に倒れかかる。
 当然、中の水はこぼれる。
「わっ!」
 首筋の冷たさにびくりと身体を動かした結果。
 某は踏み外し、神棚の御神酒、塩もろとも階段を転げ落ちた。
 無様な仰向けになったところに、首元から御神酒、塩が流れ込む。
 そこで慌てて身を起こしたため、御神酒は塩を溶かし込みながら、某の身体を伝い。
 傷の癒えない“男子本懐”へ。
「……!」
 もう神職の威厳もへったくれもない。アルコールと塩の連合軍に某は股ぐらを押さえて七転八倒。
「痛い!痛い!」
 闇雲なブレイクダンスとでも評すべきか、あまりの勢いに夫婦はしばし見物した。むろん、2階から女の子達も。
「罰当たりが。落ちる時骨でも折ったか」
 主人氏が吐き捨てる。
「さぁ。あ、御神酒クースーにしたんだけど、ひょっとしてそのせい?」
「……なんだ?」
「あんた昨日一升あけちゃったじゃない。今朝の御神酒が無くてさ。料理酒じゃ失礼だし、一番上等のを、と思って」
 女将さんが言った。クースー。古酒と書き、沖縄の長期熟成の泡盛である。
 アルコール度数は70を越す物もある。
 某の動きが痙攣気味になってきた。
「救急車救急車」
 夫婦がようやく動き出した。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -41-

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 仲間達がようやく騒ぎに気づき出す頃、理絵子は一足早く座して待ち受けた。
 階段下から次第に見えてくる、昨日と同じ平安装束、衣冠束帯。
「お前ら……」
「待ちなさい!」
 理絵子は一喝した。
 凛とした声が冴え渡る。
 想定外の応対に、某が神棚の前で足を止め、目を剥いた。
「女子の寝室に勝手に入り込むことは、いくら神職でもお断りします」
「なにっ?」
「昨晩私たちは徹夜でクラブ活動の作業をしていました。仲間達を寝かせたい。御用がございましたら、わたくしがここで伺います」
 理絵子は某の目をまっすぐ見て言った。背後で仲間達も半眠半覚醒でこちらに耳を向けている。こう大声でやり合っていては、寝ていろと言う方がまぁ無理である。
 気付く。もし、塚の悶絶人がこいつである旨仲間に話していたら、仲間達はそれを想起したであろう。そして、それを某に見抜かれたであろう。
 某が唇の端でニタッと笑った。
「徹夜でクラブ活動てか」
「ええ」
「恐怖クラブか?夜半に塚まで行ったであろうが」
「は?」
 この発言に切れたのは主人氏。
「拝み屋!言うに事欠いて何を!」
「おじさま待って。……向坂さん。何故私たちが塚まで行ったと?」
「また壊されておる。昨晩地区にいた若者といえばおのれらしかおらぬ」
「私どもが塚を壊したと」
「そうだ」
「塚は土盛りですよね」
「その通りだ」
「では、私どもの靴を調べてみてください。いいえ、器物損壊の容疑で警察を呼んで頂いて結構。靴に残った土の成分や、靴跡の照合で、非が私たちにあるか判るはずです」
 理絵子は言った。
 実際問題行ってはいないのである。説得力のある反論を用意出来るとは思わない。
 果たして某は黙り込んだ。
 ダメ押し。
「私の父は警察官です。こちらの地元の鑑識に依頼することも出来ますが?」
「きさま……」
 ギリっと歯を噛み鳴らす。よほど口惜しいと見える。
 理絵子は某をまっすぐ見据える。追い込まれたこの男はどうする?何か“力”を使うか?
 その時。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -25-

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 メリディオナリスがステッキを縮めようとして首を傾げる。
「これおもちゃの奴じゃなかったの?」
「え?どういうこと?」
 大魔王諏訪君が首を傾げ、ステッキを受け取り、手にして見回す。軸を指で弾く。キンという金属質の固い音。
 プレゼンテーションでよく見る“指し棒と”同じ仕組みの伸縮機構。
「トップジュエルも……水晶みたいだ。相原さん作ったの?」
 レムリアは気がついた。
 ただ一つ強く思うこと……メリディオナリスゆみちゃんの思いが形を成したのだ。すなわち、みわちゃんにこのマンガのヒロインをやらせてあげたい。
 おもちゃが本物の質感を備えた。
「ダイヤじゃ無くて水晶だけどね」
 レムリアはそれだけ言った。
「みわちゃんにプレゼントしてあげて下さい。そして彼女が目を開いたなら、助けてあげる側になってあげてと伝えて下さい」
「うん」
 ゆみちゃんに戻す。ゆみちゃんはステッキを縮めて戻し……この動作に合わせて病院パジャマ姿に戻っているのだがそれは気にせず……ハッとした表情で顔を上げた。
「それって……もうお別れ?」
「また来るから」
「嘘」
 ゆみちゃんは即座に返した。ややつり上がったまなじりが怒りの意図を表する。
 嘘の二文字に込められた重さを思う。「また」が「ない」子もいる。
 軽々に過ぎる。
「結局アンタも雑魚い大人と一緒なんだね。口先ばかり。東京からそう簡単に来られるもんか。おためごかしは嫌いだよ」
 レムリアはこの間背後に回ったウェストポーチに手を入れ、衛星携帯電話をポチポチ。
「簡単に来られると言ったら?」
 ゆみちゃんは一瞬怒気を孕み、しかし次の瞬間、驚愕に双眸を見開いた。
 レムリアの背後、窓の外に構造物が上から降りてくる。
 船の構造を持つもの。甲板の柵を掴む大柄な男が一人。
「帰るよ諏訪君。後ろ開けて」
「後ろ?……これは」
 諏訪君の動作が止まる。
「光子ロケットと言ってあなたは理解出来ると思う。超高速飛行帆船アルゴ号」
 レムリアはきびすを返し、窓を開き、身を乗り出し飛び移り、大男と二人でスロープを病院の窓に渡した。
「諏訪君ここへ。……じゃあまたね、ゆみちゃん」
 彼が乗り込むのを待ち、ウィンク一つと両手でピース。
「私の本当のことを知る人は私のことをレムリアと呼ぶんだ。操舵室。搭乗完了。私の学校へ全速前進」
 矢のような光が一閃、南南西の空へ向かった。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -40-

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 見られていると判ったようである。男が周囲に探りを入れようとする。センサーの磁力線が塚から道路へ向き、ついでこちらの方向へ。
 自分はさておき、仲間達の心の状態までコントロール不可能。
“石”
 示唆か洞察か。意識に浮かんだその言葉に、理絵子は動いた。
 手元の石を放り投げる。野球で言うところのアンダースローだが、それは姿勢を低くしたまま腕を横振りに投げた結果あって、意図したわけではない。ただ、この投げ方だと、石は水平に流れるように飛ぶ。
 従って、石は何度か水を切り、流れの反対側へ。対岸の岩に1回2回。火花を散らして奥の方へ。
 男の意識がそちらへ向く。
「うわ部長攻撃的」
「やっちゃえ」
 7人が相次いで石を投げた。
 あっ。と理絵子は思ったが遅かった。
 理絵子は男の意識を逸らす為に石を投げたわけだが。
 7人は明らかに塚をめがけて石を投げた。
 まっすぐ狙うより、適当にそっち方面……程度の方が、命中するのは良くある話。
 石の一つが塚で跳ね、一撃必殺“男子本懐”の位置に、見事命中した。
「……!」
 男が股ぐらを押さえて飛び上がり、そのまま卒倒する。
 一方で適当にそっち方面、では、とんでもないところに飛んで行くのも良くある話。
 屋根と思われる、木の板に当たったような音。
「やべっ!」
「撤収撤収。りえぼー引っ込むぞ。ウチらが犯人にされちゃかなわん」
「あ、うん」
 島田に引きずられて、理絵子は塚を後にする。彼女達は他人様の家屋に命中したと思ったようだが、実際には対岸にある何らかの祠(ほこら……翌日道祖神と判明)に当たったと見られる。しかし、自分たちが犯人にされてマズいのは同意で、撤収する。
 宿に戻る。
 さて、このように深夜から早朝にかけて目覚めてしまうと、再度の寝付きはスムーズに行かないもの。彼女たちは布団の中でこそこそと話し合った。
 理絵子はそこで相手が何者であるか、話そうとして留保した。今話すと後々良くない、そんな気がしたからだ。
 喋り明かし、彼女らが再度の眠りについたのは、空も白んでこようかという4時前後。
 こういう時間に寝付いた場合、寝覚めは当然遅くなる。
 眠りを引き裂いたのは、荒々しい怒鳴り声だ。
「ここの女共であろうがっ!」
「向坂さん!?」
 女将さんの声を聞かずとも、その声は某以外の何者でもなかった。勝手に上がり込み、階段をずかずかと上がってくる。

(つづく)

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