【理絵子の夜話】圏外 -40-
見られていると判ったようである。男が周囲に探りを入れようとする。センサーの磁力線が塚から道路へ向き、ついでこちらの方向へ。
自分はさておき、仲間達の心の状態までコントロール不可能。
“石”
示唆か洞察か。意識に浮かんだその言葉に、理絵子は動いた。
手元の石を放り投げる。野球で言うところのアンダースローだが、それは姿勢を低くしたまま腕を横振りに投げた結果あって、意図したわけではない。ただ、この投げ方だと、石は水平に流れるように飛ぶ。
従って、石は何度か水を切り、流れの反対側へ。対岸の岩に1回2回。火花を散らして奥の方へ。
男の意識がそちらへ向く。
「うわ部長攻撃的」
「やっちゃえ」
7人が相次いで石を投げた。
あっ。と理絵子は思ったが遅かった。
理絵子は男の意識を逸らす為に石を投げたわけだが。
7人は明らかに塚をめがけて石を投げた。
まっすぐ狙うより、適当にそっち方面……程度の方が、命中するのは良くある話。
石の一つが塚で跳ね、一撃必殺“男子本懐”の位置に、見事命中した。
「……!」
男が股ぐらを押さえて飛び上がり、そのまま卒倒する。
一方で適当にそっち方面、では、とんでもないところに飛んで行くのも良くある話。
屋根と思われる、木の板に当たったような音。
「やべっ!」
「撤収撤収。りえぼー引っ込むぞ。ウチらが犯人にされちゃかなわん」
「あ、うん」
島田に引きずられて、理絵子は塚を後にする。彼女達は他人様の家屋に命中したと思ったようだが、実際には対岸にある何らかの祠(ほこら……翌日道祖神と判明)に当たったと見られる。しかし、自分たちが犯人にされてマズいのは同意で、撤収する。
宿に戻る。
さて、このように深夜から早朝にかけて目覚めてしまうと、再度の寝付きはスムーズに行かないもの。彼女たちは布団の中でこそこそと話し合った。
理絵子はそこで相手が何者であるか、話そうとして留保した。今話すと後々良くない、そんな気がしたからだ。
喋り明かし、彼女らが再度の眠りについたのは、空も白んでこようかという4時前後。
こういう時間に寝付いた場合、寝覚めは当然遅くなる。
眠りを引き裂いたのは、荒々しい怒鳴り声だ。
「ここの女共であろうがっ!」
「向坂さん!?」
女将さんの声を聞かずとも、その声は某以外の何者でもなかった。勝手に上がり込み、階段をずかずかと上がってくる。
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