【理絵子の夜話】圏外 -47-
「1分どうやって測る……」
「手に持つキカイはナンデスカ?」
「あ」
そう、携帯電話にはすべからく内蔵時計がある。
窪川機の時計が2時12分に変わった瞬間、理絵子は動き出す。
遠慮は要らぬ。超感覚を全開とする。無線機の感度を最大にするようなものだ。それ用のセンサーがあれば、理絵子を取り囲むバンアレン帯のようなものが見えよう。
雰囲気を殺す。相手の同様な“磁界”と触れ合わないようにする。具体的にはやや難しいが、全然関係ないことを考えながら、相手に近づく。
流れを出、河原の砂利を歩き、塚に登って四阿の中へ。某は作業に集中。理絵子には気付かない。衣冠束帯にタガネとハンマーを所持し、必死になって大きな石板を叩いている。
「今度は蓋石を傷つけますか」
理絵子は言ってやった。
しゃがんでいる状態の某が、驚いて身体をぴくりと震わせて動作を止め、次いで理絵子を仰ぎ見るまで0.6秒。その間に理絵子は塚の構造を把握した。
まず四阿の屋根裏、各方位に御札がある。昼に感じた通り、ここ全体が結界の中である。
盛り土の上には石板があり、蓋の用途である。某がタガネを立てたので傷が付いている。
塚自体は古代の石室墳墓に似せた作りである。蓋石の重さは100キロは優にあろうか。某がタガネを立てたのは、蓋が動かせないからに相違あるまい。蓋を割るという冒涜を行う気なのだ。最後に、周囲にはまんじゅう型の石が多数転がっており、それは本来、石板の上に積み上げられていた塚石と知る。“蓋を開けることのないように”というおまじないだ。イタズラの演出のため、某が蹴散らしたのであろう。
元に戻る。某は驚愕にびくっと震えた後、次いで怨嗟の目で理絵子を見上げた。
「お前は……」
何か言い出そうとする某の口が、開かれたまま固定される。
巫女がそこにいる。
凛として、闇に浮き立つ白い巫女装束をまとって、理絵子はそこにいる。
理絵子はそう、巫女装束を身にまとってここに来たのだ。
そのビジュアル的インパクト、心理的プレッシャー、その辺を考慮して。
しかし、実際にはそれ以上の効能があることが、この男と対峙して理絵子には判った。
まず、衣装の本来の用途ゆえ、自分の背筋がシャンとする。
次いで、そう、理絵子は知った。おばあちゃんとの無意識レベルでの交感で受け取ったものの正体。
それは、おばあちゃんから託されたもの。のみならず、代々これに袖を通した聖なる娘達の真摯な想い。
“使命”
「がんばれ」……この装束を通して過去から応援してくれている気がする。後押ししてくれている気がする。
理絵子は一歩踏み出た。
対し某は一歩下がる。『悪い奴お前直視出来ない』。
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