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【理絵子の夜話】圏外 -48-

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 果たして某の形相が一変した。もう、仮面をかぶる必要はないというところか。
「やはり、その手の者であったか」
 岩がゴロゴロ動くような、おどろおどろしい低い声。
「だとしたら?自作自演さん」
「いつか、おのれとは、対峙せんならぬと思うておったわ」
 口調が時代がかり、二人同時に喋っているような感じになる。口がニンマリと開かれ、それこそ般若の面のような形をなす。
 ぼうっとしたものが衣冠束帯の背後に立ち上る。陽炎のごとき揺らめきであり、なにか形をなす。
 竜、或いは蛇。どちらにせよ古いものだ。
「お前憑きもの……」
 理絵子が、超絶の視力の焦点を、背後のそれに合わせたその瞬間。
「やかましい!」
 男の木靴が理絵子の腹を狙った。
 蹴り上げられる足。しかし、理絵子は男が蹴ろうと思った時点で、そのことを察知している。わずかに体をかわして足を避ける。
 横殴りに打ち込まれるハンマーを、身を屈めて回避。
 そして、しゃがんだついでにまんじゅう型の塚石を手に取り、振り下ろされるタガネを受ける。
 耳に痛い鋭い金属音がし、火花が散り、タガネの刃が欠けた。蹴る、殴る、突き立てる。いずれの攻撃も理絵子は避けた。
 その時だった。
 仲間だ。女の子達が1分経過したので走ってきたのだ。
 塚を取り囲み、それぞれのケータイが、白色発光ダイオードの照明を点灯させ、シャッター音が間断なくこだまする。
 男の目が炎のように赤い光を放った。
 意識が自分から女の子達へと向けられる。
 ぐにゃり、と、空間が溶けて曲がるような感覚。それと知らずに遊園地の落下遊具に乗せられたような不快感。
 念動。超能力サイコキネシス。
「消えたぞ!?」
「電源入らねー」
 彼女らの携帯電話に異常が生じたようである。
 次いで、四阿の屋根がみしみし音を立てた。
 実行力のある念動力。その認識に、理絵子は背筋がすぅっと冷えるような感覚に囚われた。これが彼女たちに向けられたら、と、思ったのだ。
 そう、理絵子は仲間を気遣った。仲間達に意識を向けた。
 それは超絶の目線を、憑きものから外したことに他ならなかった。
 錬磨の憑きものには、その一瞬で充分だった。

(つづく)

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