【理絵子の夜話】圏外 -45-
理絵子の両肩に手を置き、愛おしそうに、理絵子の頬から両腕を撫でさする。
それはそう。まるで孫を愛する祖母のように。
上体がぐらり。
「おばあちゃん!」
理絵子は反射的に抱きかかえた。
軽い身体。何という軽い身体。
骨粗鬆症…及び身体を動かさないことによる筋力の低下。
溢れてくる。理絵子の目から涙が、突如とめどもなく溢れてくる。
理絵子は抱きしめた。おばあちゃんの老いた身体を、そうっとであるが腕一杯に抱きしめた。理由は判らない。ただ、ただ単にそうしたくなった。いたわりの気持ちというか、愛おしい気持ちというか、そういう言葉では表現しきれない、おばあちゃんを包んであげたい気持ちが理絵子を満たした。
ここでおばあちゃんの台詞に補足しておく。壱与は卑弥呼の後継として邪馬台国の女王となった13歳の娘である。漢字には様々な当て字があるが、ここではこのように表記しておく。また、台詞の最後はどちらかというと仏、弥勒菩薩(みろくぼさつ)真言である。救い主を崇める内容であるので、記しても問題あるまい。
しばらく時が過ぎた。
理絵子は床の上にぺたんと座り込み、えぐえぐ泣きながらおばあちゃんを抱いていた。
おばあちゃんは腕の中で眠っている。その頬は、その腕は、ほんのりと赤みを帯び、表情は昨日の“鬼女”がウソのように穏和そのもの。
測定したわけではないが、血圧も脈拍も、おそらく平穏な値であると確信する。
「おば……」
「眠られました」
「え!?」
「そういう意味ではありません。抱えていたものと、求めていたものがおありだったのでしょう。安心なさっての眠りです」
理絵子は言った。何らかの“交感”がおばあちゃんと自分との間に生じたことを知る。
詳細は判らない。無意識のレベルで、互いに何かを送り、受け取った。
新生児と母親のアイコンタクトのように。
「昨日な」
と、主人氏。
「あんたの巫女写真、もらったろ?今朝ばあちゃんに見せたんだ。そしたらいきなり、『この子だ、この子だ』って涙ボロボロ流してな。なんか巫女時代に言い伝えがあったらしいんだ」
主人氏は、おばあちゃんから聞いたという、その言い伝えを話した。
それによると、代々の巫女は“継承者”であって、いつか遣わされる“最終解決人”が来るまで、塚を守るのが使命であるというのだ。ジャンヌ=ダルクのような、“伝説の少女”がやってくる。
それはすなわち。おばあちゃんは、最終解決人を……
「ターミネーター」
竹下のひとことが雰囲気をぶっ飛ばした。今さらであるが、この娘は映画好きである。
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