【理絵子の夜話】圏外 -52-
〈みんな、大丈夫です〉
“声”が聞こえた。
振り返る。蓋石の板の上に“女の子”が立っている。
白い光が一人の少女の姿をしたものだが、実際には7人分の人格である。
言葉は要らない。直接交感できる。彼女たちは言うまでもなく封じられた少女たち。帰りたかった。故郷へ戻りたかった。
でも、欲望の権化である人格がそれを許さなかった。彼女たちをこの地に封じ、再びの“彼女たちを使った遊び”を求めた。
確かに、過去には悪霊的存在になり、この地に来る若者を呼び寄せ、憑依の形で結界をくぐり出ようと試みた、こともあったという。依り代を求め、宿を覗き見たこともあったという。でも、自分たちを弄ぶ者に頼るような行動を取る気にはなれず、踏み切れなかった。
そこへ自分たちが訪れた。
彼女たちは、自分たちが、“冒涜への怒り”を抱いたことで、安心感と親近感とを持ったという。
〈嬉しかった〉
“彼女”は言った。
〈勝手に怖いと決めつけられる。勝手にお化けに、悪霊にされる。晒し者にされ、興味本位で覗かれる。私たちはただ帰りたいだけ。なのに、どうしてこんな仕打ちを受けなくちゃならないの、って悲しくてしょうがなかった。
でも、皆さんは違った。皆さんは私たちをちゃんと人格と見てくれた。そう判った瞬間、もういい、って思った。一つ訊いていいですか?〉
理絵子は頷く意志を示した。言葉は要らない。
〈同じような場所、いっぱいあるんですよね〉
それは“心霊スポット”と称され、肝試しの対象にされる場所のこと。
ネットで検索すれば、1日で見切れないほど出てくる。テレビで占いだ何だ頻繁に放送されていることもあり、ブームと言っても過言ではない。
〈今って、“死”という現象を面白がる時代なんでしょうか〉
理絵子はドキッとした。
「殺す」「死ぬ」
この種の言葉が軽々に口にされ、実行に移される。確かに、そんな出来事がとみに増えている気がする。
特に……それこそ話のネタじゃないが、これから社会を支えて行く自分たちの世代に。
そのことと、昨今の心霊現象ブームは決して無関係ではない。この彼女は、そう指摘しているのではあるまいか。
どっちも、“命”を軽んじているのが背景にあると。
であるならば。
あなたの言うことは間違ってはいない。それが理絵子の答え。
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