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【理絵子の夜話】圏外 -49-

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 刹那の後、見えない帯と表現できよう力が、理絵子の身体を締め上げる。
 しまった!という失敗の感覚、身体を拘束される感じ、首を圧迫される苦しさ。
 彼女を螺旋に包み、束縛する、実体無き大蛇があった。
 理絵子は異次元の生命、邪悪が具象化した蛇の鎌首を眼前に認めた。昨日のアオダイショウとは位相を違える、獰猛な毒蛇の目がそこにあった。それは金属製かと思わせる冷徹な目線であり、捉えた獲物に与えるものが“死”のみであることを象徴した。
 蛇の口が開く。
 哺乳類の犬歯に当たる毒牙が、非生物的にぬぅっと伸びる。
 開いた蛇の喉の奥が、邪悪の住まう暗黒世界であることは明白であった。それはイメージ的に、ブラックホールの奥底という言葉と彼女の中で一致した。すなわち。
 入り込むと永遠に出られない、虚無が支配する宇宙の落とし穴。
 宇宙の。
 理絵子の意識に想起された、漆黒の宇宙空間に、輝く星のイメージが出現したのはその時であった。
 淡いガスの中、まばゆい光を放ち寄り添う青白の星の集団。
 賢治の著作において、“プレシオスの鎖”と呼ばれるその星団を、彼女は知っていた。
 メシエ番号45、星団名プレアデス。和名を“すばる”。
 煌めきが理絵子の意識を満たす。瞬間、彼女は400光年を隔てた、満ちあふれる光の世界に、確かに身を置いた。
 意識がブラックホールからすばるへ向いた。
 それは、危機を呼び込む元凶である“恐怖”が、彼女の意識から離れ去ったことを意味した。
 同時に、すばるのイメージは、今この塚の中で自分を見ている、少女達自身であると理絵子は知った。
 理絵子の経験、“怖い気持ちは怖いエネルギーを引き寄せる”。それは恐怖が萎縮する性質を持つことに起因する。言ってみれば磁石の反発力が弱くなるのだ。恐怖が恐怖を呼び込み、つけ込み、しまいに恐怖という名の不可視の大蛇が意識精神を食う。
 少女達は、理絵子が宇宙をイメージしたタイミングを計り、自分たちの存在を星の姿で投影したのだ。
 理絵子は自分が恐怖の虜であったことを知った。仲間への攻撃を恐れる故に、つけ込む隙を与えたことを知った。
 しかしたった今、自分がそれを克服したことを知った。
 果たして大蛇の束縛力が喪失した。
 即座に大蛇は対応に出た。理絵子の意識精神に対する攻撃が失敗したと知るや、物理力で実力行使に出たのだ。実際に優位性を有する念動力の攻撃を仕掛ける。“歪む感じ”が生じ、四阿の屋根が割れ、柱が折れる。
「おのれ」
 再びの歪む感じ。念動力サイコキネシス。
 その時。
 超感覚。エクストラ・センサリ・パーセプション。

(つづく)

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