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【理絵子の夜話】圏外 -51-

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 だから対峙したくなかったのだ……言葉にすればそんな感じの意識を向坂から得る。いや、蛇の方であるかも知れぬ。恐怖でも何でも、理絵子を失神させるだけでなく、とにかく“しゃべることが出来る状態”に、しておきたくなかったようだ。だから意識精神へ揺さぶりをかけた。
 その意図に理絵子は首をかしげる。念動すら使える者が何故?念動を持たぬ自分を、念動で攻撃することをわざわざ避けた?
 嗚咽する。
「うう。ううっ。もういいよ。怖いよ」
 そこで理絵子は仲間を気遣う。みんな事態を驚いて見てはいるが、心の状態は冷静であると知る。
“見えない仲間”が安心を与えているゆえに。清流の趣を仲間達に与えている故に。
「それ、悪役の常套手段」
 竹下が、言ってのけた。
 図星で、あった。
 人が“狂う”その瞬間を、8人は目撃した。
 突如凄まじい絶叫を発し、髪の毛を逆立て、歯をむき出した口から涎を撒き散らしながら、タガネとハンマーの男が飛び上がる。
 異様な跳躍力である。火事場の馬鹿力よろしく、まっとうな脳の制御を外れたのである。バッタのように中天高く飛び上がる。
 この領域は、もはや理絵子の対応範囲ではない。
 不動明王真言。
 バン!という、爆発というか、直近に雷が落ちたような音と光が、一帯を包んだ。
 理絵子も思わず目を閉じ、顔を背けてしまう。
 しかし理絵子は“感覚”で全てを見ていた。その光の中で四阿が分解し、柱を失い落ちた屋根が某を直撃したこと。四阿の結界が解除されたこと。そして、包んだ光は男の太い腕の形に形容でき、その腕が失神した某の内部に入り、意識のヘビを握り潰すが如く捉え、まさに強引に連れ去ったことを。
 蛇が捨て台詞を自分に寄越す。“だからこの娘とは……”
 ゴロゴロという残響が山間にこだまする。
 残響が消え入り、せせらぎの音があるだけとなる。
 某も、仲間達も、その場に横たわっている。
 不動明王真言が、意識精神に直接作用するエネルギーを引き込んだことは確かである。神経系への大きなショックは失神に至らしめるからだ。

(つづく)

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