【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -31-
相原学は冷静に答えている。でもそうやって論理的に一つずつ潰して行くと、批判が難癖に変わってくるんだろうなあ……彼女は思う。
「どうやって証明するんだよ」
「ですので検出装置で調べられます」
「機械は絶対なのかよ」
言わんこっちゃない。
認めたくない人は、理論と論理で主張されると、最後は“嘘だ”と言い張るのである。
何か言おうとする相原学を彼女は指で触れて制した。
「ラムサール条約って皆さん知ってますか?」
「何の関係が」
「いいから、柴崎さんご存じ?」
彼女は学級委員であるその娘に振った。それは“優等生のプライド”……何でも知ってるをくすぐる行為でもあった。
「環境保護の……」
「その通り。“水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約”です。で、そのラムサールの意味はご存じ?」
「地名じゃなかったか」
これは辰野君。そして、気づいたのであろう、ハッと目を見開いた。
「相原さんの言いたいことが判った。ラムサールって世界で一番放射線の量が多い街だろ」
教室中がどよもした。
環境保護の象徴たる地名が最も放射線が強い。普通、両者は結びつかない。
「日本の平均的な被曝量の10倍から1000倍に達することもあります。温泉地で、放射性物質のラドンが多く、ここからはアルファ線が出ます。ラジウム温泉って聞いたことのある人いると思いますが、街全体がそういう温泉になってるような場所です。ただ、温泉として長いこと存在していることから判る通り、ここにいて健康に問題が生じるわけではありません。放射線を浴びること自体は、たった今私たちの身体を宇宙からのガンマ線がバシバシ通過して遺伝子を壊していますが、そういう害の側面と、この温泉のようなむしろ健康に良いとされる薬の側面と両方あります。ただ、放射線ごとの毒と薬の境界線は科学的には未知です」
「それ見ろ!」
「だから、放射線はゼロでなくてはいかん、という見解を取られるなら自由です。ゼロまで避けるには厚さ30センチの鉛の箱に入ってなくちゃなりませんけどね。でも、福島に滞在したこと、福島から来たことで、放射性物質による害毒を受けるという認識は理論的に全くあり得ず、甚だしい誤解だと断言出来ます。従って、彼に今後そのような言動態度を示す必要はありませんし、許しません。言いたいことはそれだけです。よろしいですか」
少し静かになる。環境保護と放射線の接点が効いたようだ。
が、反駁のきっかけを必死になって探していることは容易に想像できる。
「でも……」
「だから、たった今アナタをブチ抜いてるガンマ線は気にせずに、彼が福島にいたことをギャーギャー言うのはナンセンスだと何度言ったら判るんですか?」
「そいつがいると今あるよりも増えるだろ!」
なんじゃそりゃ。
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