【理絵子の夜話】圏外 -56-
安堵の気持ちがメンバーから伝わる。しかし田島は一人浮かない顔。
「あのね、それはいいとしてね。一つだけ。PTSDかなぁ。あの男のあの錯乱顔が頭から離れんのよ」
田島は言った。PTSDというより惨事ストレスという方が正確である。残虐や凄惨を目の当たりして精神的ショックを受けるものだ。これは人間の“死”及び“非正常”に対する恐れに起因しよう。ちなみに、惨事ストレスが後を引いた状態がPTSD(心的外傷後ストレス障害)である。
「それは……」
理絵子はちょっと考えて。
「みんな隣にいた、その“誰か”を想像してみて。どんな女の子で、どんなことが好きで……」
理絵子は言った。自分の場合最後に“喋った”娘。七五三であろう。精一杯着飾って、村人の祝福を一杯に受けて。
次こそは花嫁に……うん、そうだね。
「あ~なんか桜吹雪な気持ち……」
若井が言った。
「お前いいこと言うな。うん、そんな気持ちだ。すーっと蒸発して行くよ。すーっと」
田島が言った。
この件、解決。
すると。
「りえ部長」
今度は竹下。
「はい?」
「単刀直入に伺います。部長、あれにエスパーかましました?」
竹下は言った。一昨日も同じ事を訊かれたが、この娘は理絵子がそれではないかと心の奥底で考えているようだ。
「いいえ」
理絵子はゆっくりまばたきしながら否定した。
嘘ではない。自分は真言を口にしただけ。
「女の子達は恐らく本物の幽霊さんです。でも、私たちの投げた石が男に命中したこと、神棚のお塩やお酒があの男に降りかかったこと。そして飛び上がった男に雷が落ちたこと。その全ては自然科学で“偶然”と処理される出来事です。ちなみに、45億年前のある日ある時、ある角度から、ちょうど良いサイズの星が地球に激突し、飛び出た破片で月が出来たのも、奇蹟のようですがやはり偶然です」
「じゃぁもう一つ」
「はい」
「部長。本当に巫女さんじゃないんですか?」
「今日だけだよ」
理絵子は立った。
巫女装束。言うまでもあるまい。おばあちゃんの強い希望もあり“最後の”神事を頼まれたのだ。
女将さんが手をぱんぱん。
「部長さん」
階下から呼ばれる。
「はい」
「そろそろ、お願い出来る?」
「判りました」
理絵子は、りぼんを結び直した。
仲間達が装束を整えてくれる。
理絵子は前を見る。
凛として。
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