【理絵子の夜話】圏外 -55-
かくて、“霊感詐欺師向坂逮捕”を持って、塙夫妻の村八分は幕となった。
昨日の嫌がらせ攻撃とはうってかわって、宿の1階は多く人の声でざわざわし、女将さんが忙しい。
田島が麦茶をお盆に乗せて2階に上がってきた。
文芸部全員着席。
「さてと」
グラスを回す。
「事態を整理させてね。りえぼ。多分あんたが一番詳しいとして見解を聞きたい。あれに雷が落ちた時、私たちはそろって、この辺に誰かいる気がした。あれは何か」
田島は“この辺”と自分の左前辺りを示した。
「みんなが思ってる通り」
理絵子は言った。
「……ということは、や、やっぱり?」
と大倉。
「うん」
理絵子は頷いた。別に隠すこともない。隠したところで“ここだけの話なんだけどさ”で、いつの間にか広がるだけのこと。
「やっぱりか」
「に、しては“怖い”って感じじゃなかったな」
「そうそう、そばにいてくれる。みたいな。なんか部長とアレのやりとり、妙に冷静に見てたな」
理絵子はちょっと笑って。
「それは、彼女たちがむしろ、私らの味方をしてくれたと言うこと。彼女たちは何百年、あの塚に閉じこめられていたわけでしょ。これは、その時代の動機が関連すると思う。恐らくは、『いつか、故郷へ帰してあげられる日が来る。それまでは秘密にしておきたいので、どうかここで静かに』……そんな感じじゃない?昔は死んでも滅んだ訳じゃなく、“霊という形”で生きている扱いだからね。霊であっても戻られちゃ困るわけよ。口寄せされて『どこそこに金がある』と言われる、そこまで考えたんじゃないのかな?そして時を経て、私たちが来た。待ってましたと。幽霊さんと言っても怖いばかりじゃない」
「なるほどね。でもそうすると私たちは彼女達を帰してしまったことになるわけ?」
「そういうことだね。おばあちゃんのおっしゃった伝説の少女、やっちゃったわけよ。でも、最早誰も文句を言う時代じゃないでしょう」
「いいのかなぁ」
「いいんじゃない?ここって心霊スポットとしてネットに出てるってことでしょ?それなのに何を今さら。それよりは」
「そうだね。ずーっとここにいたんだもんね。帰りたいよね」
「いいことをした。でいいのかな?」
「うん」
理絵子は頷いた。
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