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【理絵子の夜話】圏外 -53-

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 対して、彼女は頷いた。
〈肉の身を持って生きている。だからこそ判ること、だからこその楽しみ、喜びだってあると思うんです。現に私たちは、この水の冷たさ気持ちよさ、おいしいおやつをお腹一杯食べることを知らない。触ろうとしても、みんなすり抜けてしまう。ただ、ここにいるだけ。
 うまく言葉に出来ないけれど、ここに遊び半分に来る連中に限って、人間としては薄っぺらいような気がする。そういう連中にこそ、“死”とは何なのか伝えてやりたいんだけど、逆に絶対に真剣にそんなこと考えない、そう思う〉
“手遅れ”な若者が増えている。彼女の言いたいことはそういうことだと理絵子は理解した。確かに、“命の大切さ”を教えようという働きかけが生じて久しいが、それが奏功しているとは思えない。
 言葉や想像で、“死”は実感できないという気がする。“かけがえのないものだ”と実感できる“体験”がなければ、死を、そして生きていることの素晴らしさが判らないのではないか。
 例えばゲームにおける“死”は、敵キャラクタの消滅でありポイント加算を意味し、そして自キャラクタの場合は“一つ減る”に過ぎない。
 永遠に戻らない現実の死ではない。
 父親の言葉の重さを再び思う。死が身近にあるということ。
〈あなたは死を知っている〉
 彼女は言った。
〈でも、あなたのような人はとても少ないのだと思う。だから、私たちと同じように、取り残され、見せ物にされ、悲しい思いをする子達が今後も増えて行くんじゃないか。それが私の心残り〉
 理絵子は彼女を抱きしめたくなった。悲しい思いを抱えながら、未来を考え、憂いを抱く。本来形而上の世界で安らかな日々を過ごしているはずの彼女たちに、そこまでさせてしまった自分たち“後世の人間”を恥ずかしく思った。
 彼女の抱える憂いに応えてあげる術はないのか。
〈理絵子さん〉
 彼女は改まった。
「はい」
〈400年を隔てたあなたと私が、こうしてここで意志を交わしたこと。そして何より、あなたにその“力”があることは、何か大きな意味があるはずです。人に出来ない何かをせよという意図の介在を感じます。どうか大切に。私はあなたを、そして私たちを大切に思ってくれたあなた達を忘れない〉
 白い手が出される。握ることの出来ない手が。
 だから理絵子は、その手を包んだ。
 手のひらに感じるかすかな暖かさ。

(つづく)

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