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【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-01-

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 中央図書館は駅前の商店街を抜け、甲州街道を挟んだ反対側にある。
「あ~、おなかすいた」
 マフラーをくるりと首に巻きながら、小太りといったら失礼か、メガネを掛けた陽気そうな娘、田島綾(たじまあや)が呟いた。
「はいはい100円ラーメン行きましょ」
 理絵子(りえこ)は同様にマフラーを巻きながら応じた。
 3学期始まってすぐの金曜日。
 文芸部の2年生、部長の黒野理絵子(くろのりえこ)以下、田島綾、中井茂美(なかいしげみ)、今里(いまざと)あかね、大倉久恵(おおくらひさえ)の5名は、授業を終えたその足で、中央図書館まで試験勉強にやって来ていた。3学期最初に行われる、学区内の統一学力試験の事前詰め込みである。学校の成績に影響を与えるわけではないが、この結果を基に受験する高校をある程度絞り込み、3年生になったらそこを目標に走ることになるため、気軽に受けるわけにはいかない。そこで、学校が終わった後、図書館に移動し、5時の閉館で追い出されるまで粘っていた次第。
「みんなは?」
 理絵子は振り返って中井ら3人に訊いた。田島は率先して信号機の前に立ち、赤信号の向こうに見えるその店“超絶満腹亭”の看板を、スタート前の闘牛の如くじっと見据えている。
「いいよ~」
「小腹減ったし」
 100円、という気軽さもあろう。異論はなかった。
 信号を渡って店に行く。入り口脇の換気扇から、もうもうと湯気が排出されている。
「中いっぱいだよ」
 先んじて到着していた田島が、店内に突っ込んでいた首を戻し、言った。この場所は、少し離れたところに有名タレントが通っていた工業高校がある上、その斜向かいにはプロ棋士が通っていた高校もある。時間的に彼ら高校生が寄る頃ではある。
 田島が再度店内へ首を突っ込む。そして、わかりましたぁ、と言って出てくる。
「待ってくれってさ」
「じゃぁ待ちましょ。えっと用事があるとか……」
 理絵子は再度3人の都合を尋ねる。大体、食い気は田島が主導権。そのせいか、彼女は体重計に乗るたび、今度こそ、と、新たなる決意を理絵子に宣言しては、挫折する。
「別にいいよ。早く家に帰ってもぐだぐだ言われるだけだし」
 今里あかねが答え、手持ちぶさた、といった足取りで、店の脇から路地を通って裏へとゆっくり消える。眼鏡で三つ編み、すらっとした、しかし物静かなイメージの娘だ。以下、3人は連れだって店の裏へ向かった。店の前でじっと待っていたら色気より食い気みたいに見られる、それは乙女心が許さない、というのはあるかも知れない。他方、理絵子としては、田島一人を店頭に残すのはその逆の意味で気の毒だというのがあって、3人について行かなかった。

(つづく)

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