【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-04-
「“星の王子様”」
それはテグジュペリの王子様そのものというより、挿絵の王子様に外見上似ている、という意味。
「それや~」
田島のその声に、男の子“王子様”が気付いたようだ。
こっちを見る。理絵子は近づいていった。
「何かお困りですか?」
「あ、いや、すいません、こいつのせいですよね」
振り返ったその声は、まだ声変わりしていない、そんな感じの高いトーン。
男の子は足下に来たネコを抱き上げる。その口調と、所作そのものは、その辺にいそうな男の子と変わらない。普通の調子。
でもその瞳はトルコ石のように青く、髪の毛は金色。
思わず、と言うべきか?宝石を見るような目を向けている仲間が数名。まぁ確かに、文字通り“王子様”の印象を抱いても不思議じゃないと理絵子は(自分は違うが)思う。
「お前はまた……。だめだろ?」
王子様(と、便宜上書く)がたしなめるように言い、小突くと、ネコは文句を言うようににゃぁと鳴き、ねこぱんち。
そのパンチ肉球が狙った。王子様の額。
「あ、おでこ……」
大倉が背後から気付いて声を出した。
「あ、服も、マフラーも」
これは中井。ようやく、と言うべきか?仲間達の目線が王子様の顔以外の部分に行くようになったようだ。見れば王子様のその服には破れがあり、マフラーにはほつれが、額にはひっかいたような傷があって血も少し。
冒険心のありすぎる男の子が、闇雲に薮の中に突っ込んでいった後みたい、とでも書くか。
そこで。
「ちょっとこっちへ」
「マフラーは私が」
「座って、縫うから」
少女達はそれぞれ、カバンからあれやこれや取り出すと、王子様をベンチに座らせた。
3人で傷口やほつれに取り付く。
「で?探し物は何ですか?」
この質問は理絵子が投じた。役目無しで残された田島は少々不満そうにネコの相手。
「あ、ええ、その、笛です」
「笛ですか」
「ええ、このくらいの水晶で出来た笛で、ヒモが切れてしまって」
王子様は肩幅より狭いくらいに両の手を広げて見せ、自分の首から下がっているヒモの切れ端を見せた。
「ちょっと拝見」
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