【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-03-
彼女はそのまま頭の上で喋った。
「りえぼーって妖精だっけ」
「水溶性でしょ」
「そう来たか」
「トイレットペーパーみたいだな」
「んごごー、じゃー」
「あのねぇ、勝手に流さないでくれる?」
理絵子が首をひねり、悪ノリ仲間に文句を言ったその時、映像が脳裏でフラッシュした。
男の子が困っているイメージ。
君が伝えたいのはこのことかい?
すると、ネコはにゃぁとひと鳴きして、壁の間からピョンと出てきた。少女達の間を抜け、少し行ってから振り返り、再度ひと鳴き。
「来いって……」
「うん。言ってる」
理絵子は言い、ネコを追う。OKついて来いとばかりネコが走る。理絵子は追う。
「ちょっとりえぼ……」
唐突に走り出した理絵子を仲間達がバタバタ追いかける。ネコは帰宅する人々の間をすり抜け、渋滞気味の甲州街道を横断し、図書館脇の一方通行を奥へと向かった。しかし、彼女たちは交通ルールを守らねばならず、クルマの間をすり抜けるなどという芸当は不可。
「待ってよ」
思わず口にすると、ネコはそこで立ち止まり、信号待ちする彼女たちをじっと見ながら待っているではないか。その様は、それで当たり前のような、作り話のような。
ようやく青信号で渡ると、ネコは図書館の建物裏側へ回った。図書館裏手は公園。正確には川の堤防と、図書館建物との間にある公園である。日が長い時分であれば、アベックがあちこちのベンチを占拠し、二人だけの宇宙を作っているが、このド寒い真冬にそんな酔狂な恋人同士はまずいない。
その公園に、ネコはまっすぐ駆け込んだ。中には人影があり、堤防下の暗がりで、右に左に動いている。
何か探しているようである。うろうろ見回したり、植え込みを押し開いて間を覗いたり。その所作に一瞬不審さを感じたが、すぐにそうではないと判る。その背格好は自分たちに近い年代の男の子だ。
男の子。
確かにそう、男の子…なのだが。
着ている服が変わっている。ウェットスーツを思わせる上下ツナギの青い服、に、薄茶色のマフラー。
ネコはその男の子の元へ一散に。
「あ、あのネコ行ったよ」
「なんか不思議な子」
「私もそう思った。変、というか不思議」
するとメンバーの数人が同時に言った。
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