【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-06-
「このedy様は?」
「駅前のドラッグストアで虫取り網と消毒用アルコール買ってきて」
「え~?何であたし?大体さっきからあっち行ったりこっち……」
「部長命令」
理絵子は言った。最も実際には、今この場で、唯一“仕事”がなくて不満顔をしていたのが彼女だったわけだが。
「ひっど~!」
「まぁそう言わず行っておいでよ」
「見守っているから」
大倉と今里がけしかけ、ネコも田島をじっと見上げる。ちなみにネコの当番は現在中井が担当しており、居場所も彼女の腕の中。
「みんなひどいわ。どうせわたしはヘルクレス座の女……」
「マックスコーヒー」
「!行ってきま~す」
理絵子のそのひとことで、田島は不満顔がウソのように、そそくさと駅前へ向かった。
「魔法の呪文“マックスコーヒー”キタコレ」
中井が抱いたネコの前足を持ち、田島の背中に“バイバイ”しながら言った。ちなみにそれは千葉から北関東で主に販売されている激甘缶コーヒーであるが。
「なんか“ドラえもん”で似たようなのを見た気が」
「あれは“カビン”ですな。教室の花瓶割ったのをバレたくない一心で、“のび太”が“スネ夫”の言うがまま」
無論彼女の場合は、そのコーヒーが飲みたい一心で、である。ちなみに田島は、部の合宿に、缶4本分計1リットル水筒で持参という武勇伝を持つ。
少しして、買い物ビニール袋片手に田島が戻ってきた。
「網はないよ。夏だけだって」
「アルコールは?」
「ここに」
田島が袋から取り出して見せるや、理絵子はカーディガンを脱ぎ、セーラーの上着とブラウスの袖をまくって腕を出し、ギラギラどぶ川のヘドロの中に躊躇なく手を突っ込んだ。
「おぅわ。りえぼーお前……」
「アルコールあるからいいじゃん」
「そうかも知れないけどあーあ汚えなぁ」
「ほい」
笛を無事に拾い出す。まみれたヘドロの間から煌めく透明。
それを見た田島が、ため息一つ。
「あのさぁ。あんたの勇気というか優しさというか……そういうことされるとさ、あんたに言おうとした文句とか、相対的にレベルが低くなって何も言えなくなるんだよね。ズルイキャラだなもう」
田島はフグのように膨れると、笛を理絵子の手から奪い、公園の水道まで洗いに行った。
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