【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-08・終-
「どうもありがとう。さぁ、みんな行くよ」
王子様が立ち上がる。と、王子様のネコ“ますむらくん”が、中井の腕から飛び降り、彼の肩の上に。
次いで、集まっていた老いたネコたちが、王子様の周りに集合。まるで団体旅行の集合時刻。
それこそマンガばりの異様な光景。少女達は目が円くなり、声も出ない。
一陣の風。
王子様のマフラーが吹かれて飛んだ。
「あっ!」
「ほーら部長風吹かすから」
すっかり暮れた空に舞い上がったマフラーを彼女たちは追った。
少し離れた場所に落ちる。
拾おうとして、中井が気付いた。
「へ……」
それはマフラー、ではない。
鳥の羽根、否、羽根ペンがふわっと人数分ひと盛り。
ペンの山から紙が一枚。メッセージ有り。
“差し上げます。ありがとう、優しい彼女たち”
振り返ると、王子様も、ネコの姿もない。
無人の公園に自分たちだけ。
「な、何この状況は」
「まぁ、そのままお話に出来る、んだろうね」
「文芸部きっての超リアルショートミステリーってか?」
「どうよ部長」
「死期を悟った野良猫は、人前から姿を消すという。さ、ラーメン屋は空いたかな?」
理絵子は、それだけ言うと、ぺろっと舌を出して歩き出した。
「なにそれ!」
「腹立つ。自分だけ知った風に」
「こら待て!いっつも自分だけおいしいとこばっかり!」
なんと言われてましてもお話しすることは出来ない“約束”ですので。
知ってしまった(かも知れない)/終
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