【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -02-
湯気立つケーキをリビングのテーブルに置くと、程なく父親がカップにコーヒーを入れて持ってきてくれた。父親の入れたコーヒーはやや濃いので、ザラメ砂糖をスプーン一杯加えるのが、理絵子のパターン。
「あ、おいし」
「理絵子」
父親が改まったように言い、コーヒーカップをテーブルに置いた。
「ん?」
「お前、オレが白昼幽霊を見たと言ったら、信じるか?」
その時点で、理絵子は今夜のこの時間が、父親からの折り入っての相談、と理解した。
「ウソ言うためにわざわざ難波まで出る父さんだとは思ってないけど?どんな幽霊?」
「女の子、だ」
おんなのこ、という語感から幼いのかと思ったらそうではなかった。父親の言うには、気配がして振り向く、呼ばれた気がして振り向く、等すると、ミニスカートにブレザーという、学校の制服とおぼしき姿の髪の長い少女が見え
「……たかと思った瞬間、見えなくなるんだ」
「時間は?ひとりでいる時か、逢魔が時とか」
「時間はまちまち。夜勤の時もあれば朝。昼飯時にもあった。ひとりでいる時だけだな。トイレで手を洗って鏡を見た瞬間、残像だけある、みたいな」
「なるほどね」
「悪いな。試験時の忙しい時に。もちろん、最近寝不足気味だから、何か記憶が引き出されているとか、そういうのはあるかも知れん。実害はないし、急がないから、結論はテストが済んでからでいいよ。考えられるお前なりの見解だけ今は教えてくれると助かる。………前しか、相談できない事象からな」
「判った」
父親をじっと見る。“そういう系統”なら、こう話しているだけで容易に判るという自信がある。
しかし、今の父親からはそんな感じは受けない。
“そういう系”ではない?
「疲れすぎると、単に思い浮かべたものと、現実と、ごっちゃになったりするよ。その彼女、以前捜査の関係で出会って、印象に残ってるんじゃないのかな?すっごい美人さんとか」
「急がないから」父親のその言葉もあっただろう。理絵子は特に疑いを持たず、軽い気持ちで言った。期末テストという物体が、頭に重くのしかかっていたせいもある。
「おいおいオレがまるで女に飢えてるみたいじゃないか。口から出任せは困るぞ」
「男性は疲労の度が過ぎると、生命の危機近しと本能的に思うらしく、子孫残さなくちゃと、昂進、なさるそうです」
「そういうもんかなぁ。なんか中学生の男の子みたいだぞ?」
「今すぐ私の出る幕とは感じないよ。でも冗談はともかく、父さんが凄い疲れてると感じるのは確か。私が関わるとすれば、父さんの疲労が解消されてもなお、の時。少しでもいいから身体を休めてね」
「う~ん、わかった。ありがと。はぁ、そこだけは中学生のままなのかオレは……」
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