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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -06-

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 受話器を戻し、階下寝室へ。
 ドアを開くと、フットライトのわずかな明かり。
 そしてダブルベッドの真ん中で母親は大いびき。自分の高校進学の学費を今から、とかで、内職でwebサイトのデザインをやっている。……と、書けば今風でオシャレだが、実のところ結構しんどいようだ。見るからに起こすのは申し訳なさそうな寝入りっぷりであり、実際、ベッドサイドテーブルの電話子機は電池が抜かれている。要するに何があっても起きたくない、ということだろう。
 でも父親の一大事。
「お母さん」
 無反応。
 揺すりながら再度呼ぶ。
 変わらない。
 仕方ない。
 理絵子は母の額に手のひらを載せる。
 いびきが止まる。理絵子は手を離す。
「お母さん」
 母親は天井を向いたまま、静かに目を開いた。
 首を傾けて理絵子を見る。こういう目覚め方は理絵子の仕業と判っているのだ。
「理絵子……何かあった?」
 母親は問うた。それは子を守る母の顔。
「父さんが病院に運ばれたって。悪夢でうなされて、暴れて、骨折したとか」
 しかし母親は特段慌てず。
「……判った。着替えなさい。行きましょう。保険証出して。あと、入院するかもだから父さんの下着とパジャマを」
「うん」
 父の衣類は出張対応で常にバッグに用意してあるのでそれ。自分の服装は選んでいると時間が掛かりそうなのでジャージにはんてん。
 母親の小型車で出る。寝静まった住宅街の坂道を下り、アスファルトでなくコンクリート舗装の甲州街道を西方へ。街灯と、道路と、わずかな路上駐車。
 両脇の家々には人々が住まい、眠っているはずである。しかし今この時間、この場所で動いているのは、自分たち母子だけ。タイヤがコンクリートの継ぎ目を叩く、リズミカルな音が、唯一の鼓動のようにも思える。ちなみにコンクリートで舗装されているのは、旧日本軍が零戦の滑走路としても使えるように作った名残とか。
“鼓動”のリズムが落ち、信号待ち。
「何か感じる?」
 じっと前を見ている理絵子に母親が問うた。理絵子の両親は、娘の能力のなんたるかを把握している。そして、その能力の持ち主としての心構えを学ばせるため、修験道の場でもある東京・高尾山(たかおさん)で密教の門を叩いた。従い、彼女はその流儀で能力をコントロールできる。

(つづく)

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