【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -05-
-そうだな。
苦笑と諦念が理絵子に届いた。
-オレはオレでしかない。オレなりのやり方を見付ける方がいいな。
ふっきれた、という状態。
〈その方がいいよ。道は一つじゃない〉
白い玉を手に持つ。
-ありがとう。君は……。
〈それは秘密〉
超感覚を切ってしまう。これでこの男性からは何も見えなくなる。
次いで男性の“存在感”が部屋から消える。
ひとり、“送り出す”。理絵子はホッとした。
数日経過した。
期末試験はそれなりの結果であった。
学級委員だから学業もさぞや、と思われている節があるのは承知しているが、語学文系はさておき、理数はからっきしだ。「結構理屈っぽい」と言われるのだが、直感を裏付ける根拠を探し、口にしているに過ぎない。与えられた情報から論理立てて説明し、組み立てて行くという作業は実は好きではない。ただ、それでも、うらやましがられる点数ではあるらしい。従って、通知表にもそれなりの結果が反映される。
終業式の日。クリスマスイブ。天文学的に正確な日付では既に25日。
午前2時。
父親は署に泊まり。仮眠して事件発生に備える。そんな案配。帰宅は朝の7時だかになるので、通知表をダイニングに置いて眠りにつこうか、としていたところ。
直感の閃きにFAX一体電話の受話器に手を伸ばす。消灯していた液晶ディスプレイに明かりが入り、“着信”の文字が出てところで受話器を取る。
「はい」
『え?あれ?』
うろたえる若い男の声。あまりにも受話器を取るのが早すぎたか。
「どちら様ですか?」
相手は警察署の人間だと名乗り、
『夜分に恐れ入ります。黒野(くろの)警部の……』
「そうですが」
父親が搬送されたという。仮眠室でうなされ、暴れ、起こそうにも近寄れないので救急車を呼んだという。
大学付属の医療センターに搬送。足を骨折した由。
理絵子はこの時点でピンと来ている。父親の見た“幽霊”と接点がある。
ただ、うろたえる必要は感じない。父は今、恐らくクスリで眠っている。
「判りました。母に伝えて病院へ伺います。わざわざすいませんでした」
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