【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -08-
「理絵子」
「えっ」
寝入っていたらしい。父親の布団の上から半身を起こすと、足元には付添用仮眠寝台があり、母親の手が自分の肩から毛布を取るところ。外はすっかり朝の気配。
父親はまだ目覚めない。
「寒くない?」
「大丈夫」
「よく寝てるね。普段、何かあったら飛び起きるって状態で寝てるからね。ここまで深く寝ることはなかったんだろうね。睡眠が不足していただろうね」
父親が起きたのは結局8時近く。
目を覚まし、飛び起きようとし、すぐさま警察署ではないことに気付いたようだ。
「……俺は」
寝間着の上半身。天井からつり下がったギプスの右足。
「うなされて暴れたそう。足は骨折」
「え?あいてて…」
遅い朝食を運んでもらい、うなされた時の記憶がないか尋ねる。
「追われた。包丁で刺されそうになった。それで必死に抵抗したんだ。ところが、殴ろうが蹴ろうが相手には掠りもしない。危険を感じて腰に手を伸ばしたところで、足を刺された」
足を刺され…が、骨折に伴い映じたイメージであろう。ちなみに、腰に手、は言わずと知れた拳銃のことだ。
「相手の顔は?例の女の子?」
「だと思うんだが判らない。ぼやぼやっとして…その、ボカシが入ったみたいに。でも服は…あれ?藤川高校みたいな。チェックのミニスカートで」
都立藤川高校は現時点で理絵子が漠然と考えている進学先である。共学の普通科だが、出自が女子校だったせいか、女子の制服が標準でミニスカートであり、かわいいのだ。白百合をデザインした校章バッジが、ブレザーの襟元で良いアクセントになっている。それになんと言っても自宅に近い。なお、都内の公立高校は都立か国立で、他県に存在する“市立”に相当するカテゴリはない。従い都立だからといって、それが即、他県の“県立”に相当するステイタスを意味するわけではない。
「私が言ったのが記憶にあって、それで…じゃないのかなぁ」
理絵子はタマゴサンドをかじりながら言った。直近の記憶や、興味を持った内容が夢に反映されるのは良くある話。脳は就寝中に情報を整理し、大事なものを強く記録するが、この際に流れる情報が夢という形で現れる、というのが最もらしい説明。ただ、何かの連想でそうした直近・興味のあるファクターが呼び出された、という可能性は考えられる。幽霊が女の子でミニスカートの制服という話に、自分の言った藤川高校がくっついたか。
「夢は現実の印象が反映されることが多いんだ。最近何か強く印象に残る事件でも」
「こら理絵子」
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