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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -07-

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「今は何も。多分父さんは眠っている」
「そう」
 病院へ到着し、待っていた警察署の若者と挨拶。彼は理絵子達を当直の医師に引き合わすと、「これだけで済みませんが」と帰って行った。
 医師の説明を受ける。当座の処置として鎮静剤を打ち、骨折の処置をしただけ。骨折したのは足首だという。数日動けず、着替えなど必要。
「悪夢については私からは何とも。心療内科へ連絡状を書いておきます」
 病室へ通される。父親はベッドにあり、足をギプスで固められワイヤで吊られ、人形のように動かない。
 理絵子が病室にとどまり着替え等を引き出しへ納め、母親が手続き書類等を書きに行く。
 父親の寝息。窓からの月明かり。ゆるめの暖房。
 横顔を見る。もみあげに白髪が目立つ。年齢を意識するとともに、こうして父親をじっと見るなど何年ぶりかと思う。父親が“年頃の娘”を気にしてか、つとめて自分と距離を置こうとしていると知っている。母は母、父は父、そして自分。同じ屋根の下に寝起きしながら、“3人一緒”の時間が減っていることを意識する。子はいつしか親から離れて行くから、次第にそうなるのは当然といえば当然である。だけど、一緒にデパートで食事、なんてのが戻らない過去かと思うと少し寂しい。最も、今の年齢でその状態は子どもっぽくてこっ恥ずかしいという矛盾した感情が、自分の中に存在する。
 それでも、友は自分が親子仲良しだと半ば感心して言う。友人達にとって、親は過剰に干渉してくる疎ましい存在でしかないようだ。
『勝手に部屋覗いてさ、グダグダ文句言うんだぜ。じゃぁテメエは私物漁られて文句言わねぇのかよって』
 プチ家出で自室に泊まった友は、寝床の中でこう漏らした。親にとって子はいつまでも子であり、一方、子にとっては、自分のしたいことが親の許容範囲を超えると自覚した瞬間、親は不当な干渉者に変化するのだ。他ならぬ親にぶら下がってないと生きて行けはしないのだが、都合のいいところだけ、親を排除したいのである。
 ちなみに、理絵子はその友に対し、ドアを閉めてあるから覗きたくなるんだ、とアドバイスした。部屋のドアは閉めずにおき、机の回りをピシッと整頓しておけば、『きちんとしている』という印象と認識を与え、親は安心するもの。
「隠すから見たがる。隠していない物には興味を持たない」
「そんなもん?」
「隠すと避けてるという印象を与えるから、火に油だよ」
……ちなみに二人がこんな会話をしている頃、理絵子の母親が、その友の親に“安心しろ、帰宅しても叱るな”旨電話をしているのだが。
 母親の声が、理絵子を現実に引き戻した。

(つづく)

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