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2020年10月17日 (土)

【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -09-

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 母親が制した。家族といえど、そこから先は捜査上の秘密であり、触れてはならぬ領域。
「……ごめん」
「いや。お前の気持ちは嬉しいよ。その辺も少し整理してみる必要がありそうだ」
 父親は、言った。
 そこへ看護師。心療内科の予約が取れたが、診察室に赴くか、病室へ出張してもらうか。
 スタンド使って足を吊っている状態で、診察室へというわけもあるまい。
 病室への出張を依頼し、その間に理絵子は一旦家へ戻る。ひとっ風呂ならぬシャワーで流して、着替えて再度病院へ。
 診察に同席するためである。現時点、黒野家で一番詳しそうなのは理絵子だ。
 10時半過ぎ、予定より10分ほど遅れて心療内科の医師が到着。
 ベッド周りをカーテンで囲む。病室は6人部屋だが、他のベッドに人はなし。
 医師は夢の内容を聞き、直近の勤務状況と、悩みの有無を尋ねた。
 勤務はキツイが悩みはないと父親は答えた。ただ、強いて言うなら次々事件で休むヒマもない。一応幽霊のことも話す。夢に出る、で済まなくなると、シラフでも聞こえ、見えてくるからだ。幻覚幻聴白昼夢である。
「追われる夢というのが…」
 医師は無茶な期限や急かす上司の存在がそういう夢につながると話した。まぁ、医学的な診断としては、まっとうな結論と言える。
 不安障害。鬱傾向。病気と言うほどではないが、一旦ストップした方が良い。診断書を書くから、骨折直しがてら少し長く休め。それが結論。サイレース(睡眠導入剤)を処方してくれる由。家族の皆さんはなるべく、父親の好きにさせ、何もせず放っておけ。
「鬱病か」
 父親はベッドでうなだれた。
「そうじゃないって。忙しすぎて精神的に参ってるってこと。あれもこれもと思うと、意識がハイになってなかなか寝付けない。寝付けないから疲れる。そんな状態でたまに寝入ると、意識の中に置きっぱなしのあれもこれもが追いかけてくる。そんな状態じゃないのかな」
「幽霊は?」
「お父さん無理して私と距離取ってない?」
 父親は理絵子の瞳を見、目を見開いた。それは図星の反応。
「ウソはだめだよ。押さえ込むと夢に出るよ」
「鋭い娘には何言っても無駄か」
 父親は苦笑して頭をポリポリ掻いた。
 お父さんお父さん…鬱陶しいほどべたべたくっついてきた幼い頃の理絵子が懐かしいと父親は言った。しかし多忙の末、ろくに話もしなくなった己に対し、理絵子が愛想を尽かしたのではないか。嫌われるよりは距離を取ろう、そんな風に考えていたと父親は語った。
 父親は寂しかったのだ。理絵子は理解した。自分と同じ、“あのころ”への想いを抱えていたのである。それが多忙という現実の圧力を受けた結果、戻りたいという思いとして幽霊を形成し立ち現れたのではないか。

(つづく)

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