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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -11-

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 正月。
 集中看護が不要な父親は大晦日に家に帰された。足は相変わらずギプスで固めているが、吊っておく必要はない。但しそういう状況であるから、外出は車椅子、宅内の移動は松葉杖。
「バリアフリーの必要性について真剣に考えさせられるな」
 父親は漏らした。些細な段差、隙間、往来の狭さ、……普通に歩いていると気にならない悉くが、こういう状況では難儀そのものと化す。
「赤い顔して言っても説得力ないし」
 理絵子はトイレから帰って来た父親に笑って言った。酔ったせいもあろう、父親はややふらつきながら、松葉杖でどうにかこうにかドアをくぐり抜ける。
「飲む以外することあるか。あ~こんな正月何年ぶりだ」
 父親はリビングのテレビ桟敷、大振りな革のソファに身を預けると、ウィスキーの封を切った。確かに、仕事が仕事なので3が日全部家にいたことはないし、そうでなくても大きな事件があれば呼び出される。“非番”は“待機場所が自宅”、なだけに過ぎない。
「まだ飲むつもりだよちょっと」
「お父さんさすがに飲み過ぎじゃ…」
 病院は禁酒。心底嬉しそうな父親にはちょっと悪い気もするが。
「医者が言ったろ?『家族は父親の好きにさせるように』……大丈夫大丈夫、限界は知ってるから」
 父親は医師のセリフを反復した。にしては呂律が回っていないが。
 この状態はあまり良くない、と理絵子は直感を得た。医学的に結論づけざるを得ないから鬱傾向なのであって、形而上的な調べは何もできていない。霊能者に分類される自分のセリフじゃないが、何でもかんでも“霊の仕業”とする風潮には疑念を呈したい。さりとて、科学的要因にこじつけるのも一方的な気がする。科学は科学の限界を知るべきだ。
 そんな理絵子の思考に対し、テレビでは霊能者と科学者の言い争い。
「あ~眠い。寝るぞ俺はぁ。理絵子、何か掛けるモノ持ってきてくれ」
 父親はソファをリクライニングさせて簡易ベッドにし、仰臥。それは“緊急呼び出し対応”時の仮眠のスタイル。ここに寝るように習慣づいてしまっているのだ。
「単価高いよ私」
「1万でも2万でも母さんからもらってくれや」
「なんであたし」
 酔うとなまじ面白いから怒る気も失せてしまう。リビングから寝室に向かい、毛布と布団を持ってくる。

(つづく)

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