【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -15-
本橋美砂が包丁を振り上げる。
後ずさりする理絵子の背中が壁の感触を捉える。
更に背後へ行こうとするも、それ以上進む先はない。
念動力サイコキネシスで自分を拘束しているのだと理絵子は判断した。
本橋美砂が包丁片手に微笑む。眼光が緑色を帯び、口が鬼女のそれのように大きく裂ける。
逃げても無駄。
「その通り……」
本橋美砂が頭上で包丁を両手に持った。
呼ぶ声があった。
理絵子。その声は確かに理絵子を呼んでいた。
理絵子。
聞き覚えのある女の声。
母親。
理絵子。自分を呼んでいるのだろう。
理絵子。起きなさい。
理絵子。起きて。
起きて?私はここに……ここは……。
「理絵子!目を覚ましなさい!」
目を覚ませ。そのフレーズは理絵子に、理絵子自身が今どこにいるかを思い出させた。
父親の夢の中。
すなわちここは現実ではない。
虚構だ!と意識が叫ぶ。現実と思わされていただけ、高校の敷地ではないし、念動力による拘束でもない。
拘束できるほどなら包丁など要らぬ。
がちゃん、と頭の中で切り替わる感覚。
まぶたが操れると気付く。
理絵子は目を開く。開くと眼前に眠る父の顔。
背後の気配に理絵子は振り返る。
思わずハッと息を呑む。
包丁を振り上げたブレザーの少女。
幻ではない。今の今まで夢の中で対峙していた制服姿の少女が、暗闇の中、炎のような色の目を自分に向けてそこに在り、その目線同様、包丁で今まさに自分を突き刺さんとしている。
そして。
その、振り上げた少女の腕を、背後から手を伸ばし、必死の形相で掴んでいる自分の母親。
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