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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -14-

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 気が付くと眼前に少女がいる。ライトグレー地のチェックのミニスカート、紺のブレザー。高校生であり、その都立高校の生徒であり、その制服だ。
 激しい憎悪と敵意を受ける。名は本橋美砂(もとはしみさ)というようだ。隠す気もない、否、堂々と見せつけている。
 怖がれとばかりに。
 父が見ていた〝幽霊〟だと理絵子は知った。
『ようやくつかんだと思ったら』
 声と共に意図するところが伝わってくる。しばらくの間、父親の意識を見失い、“保護されている”のを知った。ようやく意識を再発見したところが、今度は自分がいた。なお、“保護”は、自分が父親の意識情動をテレパシーで見ていたことを意味した。すなわち、理絵子が“監視”しているのでアクセス不可能だったというわけだ。
 明らかに超常能力者の認識であり言動である。自分を睥睨するその姿は、氷のような……と形容詞を付けたくなる、大人びた印象の少女というより既に女。髪が長く、スラッとしている。背は自分よりかなり高い。
 無言で見つめ合う。相互に相手を探っている。
 すごい相手だと理絵子は思う。普通、超感覚で探られるとそれと判るものだが、一切関知させない。心から情報を抜かれないようロックしたところで無駄であろう。圧倒的に自分より高い能力の持ち主である。
 ただその代わり、理絵子の側も相手の情報を幾らか見た。
 その即死した若者の妹だ。
 そして、父を憎むに至った経緯は次の通り。
 両親が連帯保証人となり、借金を背負わされる。兄はグレて家庭は崩壊。両親は借金苦で自殺(自殺は生命保険金が支払われない)。兄妹だけが残された。この事態に兄は兄なりの方法、すなわちグレた仲間と集団窃盗で妹を養い、高校へ進学させた。そこに起こったのがこの事件である。妹は間もなく住んでいるアパートを追い出され、高校も授業料が払えず退学の方向。
 同情すべき余地はあるが甘い、と理絵子は冷静に捉えた。児童相談所や役所など、保護の申し込みは可能なはずだし、奨学金や、都立校なら公的助成があるだろうし、併設の定時制へ移って夜働くなど、幾らでも手はあるはずだ。
 それにそもそも、窃盗は犯罪。
 犯罪。
 その行動否定語は本橋美砂を激怒させた。
 まるでマンガさながら、本橋美砂の髪の毛が吸い上げられるように浮かび始め、情念という言葉を想起させる、青いオーラが彼女の周囲でめらめらと燃え上がる。
 かなう相手ではない……理絵子は思わず後ずさりした。
 合わせ接近してくる本橋美砂。
 言葉はない。ただ黙って近づいてくる。だがその発散する雰囲気は如実な殺意を物語る。
 手品のように本橋美砂の手に現れる包丁。

(つづく)

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