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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -02-

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「姫ちゃん」
 呼ばれて、彼女は“目覚める”。音楽聴いたり瞑想したりするのは、ストレス源シャットアウトの次善手段だが、通り過ぎてうたた寝していたらしい。
「仏様みたいだったわよ」
 教壇からキュロットスカートの担任奈良井(ならい)が笑みを含んで言い、クスクス笑いがクラスに広がる。どうやら座ったまま微動だにせず目は半眼……菩薩様の半跏思惟像っぽく見えたと。
「おん・まいたれいや・そわか・きょうの・きゅうしょく・なにか」
 言われたからにはボケ倒す。指を“OK”の形に作り、呪文っぽいのは弥勒菩薩の真言(しんごん)もじり。「56億7千万年後に再臨する救世主マイトレーヤ」は彼女が住んでいたキリスト教圏でもそれなりに有名である。なお、彼女自身の外見容姿は日本の街中歩いていて海外の出自と判らず、幼さの残る“ころん”とした顔立ちと、真っ直ぐな目線の持ち主であり、原宿歩いていてスカウトされたこともある。
「カレーだよ」
「やったぜ」
 目を見開き、両の手を身体の前で合わせてパチンと鳴らす。
 クスクスを通り越してぷっと吹き出す声。
 担任は咳払いして場を改め。
「では学活始めます。連絡事項。昨日の水道水の放射線数値は……」
 そこで彼女は“いつも自分を見つめ続ける思惟”の不在に気づく。
 右斜め後ろ、廊下より。
 見なくても判る。空席だ。
「……えっと、あとそう、平沢君ですけど」
 担任の言及に目を向けると、クラスメートの目も揃ってその空席に向けられ、少しざわつく。野球部で活躍し応じた体躯のスポーツマン。体調不良とは縁遠いタイプだが。
「家庭の事情で今日は欠席と……」
 ガラリ、と、やや性急さを伴って教室の前側引き戸が開けられたのはその時。
 肩で息する大柄で坊主頭。件の平沢である。この中学校の制服はブレザーであるが、ボタンが一つ留まっていないなど、慌てて引っかけてきた風情。
 真剣なまなざし、焦燥を感じる表情、自席に近い後ろドアではなく、前から入ってきた理由。
「姫ちゃん」
 体格なりの野太い声で呼ばれると同時に彼女は自分を指さし立ち上がった。彼が普段、自分に思惟を送る背景は好意に他ならない。公開告白に公開お断り済み。自分には婿の候補者が内定済みでダメだよとは言ってあり、理解は示したが、自分と普通に接してくれる希少な女子が学校一の美少女では、どうにも止まらないらしい。
 そうした経緯でフランクに姫ちゃんと呼んでもいいよとは言い、さりとて彼は恥ずかしがってクラスにあるときは「相原さん」とさん付けを通していた。
 それがいきなり姫ちゃんと来た。自分に強い意志持て伝達したい何かがある。

(つづく)

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