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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -19-

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 本橋美砂がクルマから降り立つ。すらりと背が高く、小造りな顔立ちに切れ長の目。“純粋培養”とでも表現したくなるほど肌の色は白い。降車に伴い屈んだ背中に長い黒髪が流れ、陽光を弾いて弧を描く。手足がほっそりしていて長いせいか、立ち居振る舞いは演出しなくてもエレガントだ。ただ、薄幸そうに見えるのは、本人の心理状態もあり、仕方がないか。
 果たして宿主夫婦は目を剥いた。
「うわ~本当に美人さんだわ。息が詰まりそう」
「透き通るみたいだなぁ。天使じゃあるまいね」
「こんな子いるんだねぇ。いや参った。あんた本当に美人だよ。売り上げ伸びるわこりゃ」
「お……恐れ入ります」
 夫婦の破格の誉め言葉にさすがに照れたか、本橋美砂は頬を赤らめてぺこり。
 と、さらりと肩から流れ落ちる黒髪。
「おおすげぇついぞ見たこと無いぞこんな黒髪」
「理絵子ちゃんも伸ばしてたよねぇ」
「え?ええ、まぁ」
 急に話を振られて、今度は理絵子の方が照れながらくるりと後ろを向いた。
 同様に伸ばしているが、校則の関係と、実際問題ダラ伸ばしではいろいろ面倒な場合があり、軽くまとめて白いりぼんで止めている。
「この子巫女装束着るとすっごいのよ。凛としてて」
 女将さんが手のひらをパタパタさせて本橋美砂に話しかける。まるで井戸端会議の『ねぇちょっと奥さん聞いた?』を思わせる仕草だ。
 本橋美砂があっけにとられているのを理絵子は感じる。見知らぬ娘の歓迎会が漫才というのはそう無い。
「おばさまそんな大昔の……」
 理絵子は合宿時の出来事……詳細略……を思い出して赤くなった。本橋美砂の心が、極地を離れた氷のように、次第に溶けてゆくのを意識する。
「凛と……かもね」
 本橋美砂は、微笑みを浮かべて理絵子を見、自らの髪の毛を指でなぞった。
 女の子同士髪の毛談義……それは恐らく、この年上の薄幸の少女には存在しなかった過去。
「何この疎外感。えーえーどうせ私はくせっ毛のデブですよ」

(次回・最終回)

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