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【理絵子の夜話】聞こえること見えること-03-

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 ああ。
 理絵子は気が付いた。
 彼は意志あると考えて読み取ろうとしているのだ。それは万物に精霊が宿ると考えていた古代日本の発想そのもの。
 思い出す言葉がある。それはいわゆる霊山と呼ばれる地で修験者が口にしたもの。
「草花は雨に歌い風に踊り、訪れる虫たちはさざめいて恋を語らい、木々は鳥たちに遠い異国の声を聞く。雲は天の移ろいを教え、天道の輝きは水を、月は心を温める」
 理絵子は言った。彼は瞠目を理絵子に向けた。
「受け売りだけどね。人は自分も自然の一部であることを忘れていると。自然から受け取ろうとする努力を怠っていると。そういうことと違う?」
 言いながら、理絵子は“風の気持ち”を判ろうと風と陽光に身を置いてみた。すると、風は確かに冷たいが、手や頬に感じる陽光は冬至の頃より確実に強くなっているのを感じる。
 そして、風自体もひと頃のような力任せに吹き付ける、というほどではない。言葉にしてみると。
「もう少し、あと少し。かな」
「え?」
「私の聞いた風の声」
 理絵子の言葉に彼は嬉しそうな笑みを見せた。
「黒野さん。その、変なこと言うかも知れないけど……僕、黒野さんって他の女子とちょっと違うって気がしてたんだ。その、何というか、巫女的というか、こういう話判ってくれそうなタイプというか。言ってること判る?」
 彼は少し頬を赤らめ、戸惑いながらそう言った。
 まるで小学生の可愛い弟である。理絵子は小さく笑って。
「そういう内容はあんまり学校で口にしない方がいいね。私は嫌いじゃないからいいけどね。それから、風や光の言葉をそのまま口にしないこと。たとえみんなに言いたくなってもね。理由は君が気にしている通り。学ラン着ている以上ランドセルの頃とは違うよ」
 その言葉に、彼はうつむき気味にはにかんだ。
「わかった。気をつけるよ」
「了解。じゃね」
 理絵子は手を振って学校の方へ歩き出した。自分の家は学校を挟んでまるで逆の方向だ。
 現代社会では生きにくいタイプだろうなと思う。繊細な上に感受性が鋭すぎるのだ。わずかな、些細なことでも、強く大きく捉えてしまう。
 と、再び突風が来、マフラーを飛ばされた。
「あっ」
 振り向くと舞い上がるマフラー。反射的に言いたくなる。戻って、取って。
 見えた気がした。そして、こんな意志の動きを感じた。
“任せて”
 期せずして彼が振り返る。そして手を伸ばし、舞い降りるマフラーをその手でつかむ。
 思わず彼と顔を見合わせてしまう。“何か”を、彼も感じたのは確かだ。そして彼も、自分が何かを感じたことに気付いている。意識の共有、シンパシーという奴である。それは“存在”というか“意識”というか。少なくとも空気の流れという無機な存在ではない。

(次回・最終回)

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