【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -05-
「うん……あ、でも」
「でも?」
「今年は花見に行けないかもねって」
三春、その地名は梅、桃、桜の春の花たちが揃って咲くからという。滝桜(たきざくら)と呼ばれる咲き誇る枝下桜で知られる。
「そのせいなのか?」
「待って。……認知症だったらと仮定してお話しします。新しい記憶から失われて行きます。すると原風景が残る。その状態でふと周りを見ると知らない風景。ここどこ、帰らなきゃ。で、外へ出て“原風景”へ向かいます。ただ、多くの場合闇雲に歩くだけで、今住んでいた場所へも戻れなくなる。いわゆる徘徊の一形態がこんな感じです」
レムリアは喋りながら、自分のテレパシーを何らか使えないかと考えている。ただそれには結局おばあさまと出会って意思の疎通をしないとならない。平沢の記憶の中のおばあさまから……は無理。容姿は掬い上げたが。前掛けをした和服姿。
……サイコメトリを使うか。ただそれにしても“思い”の残った要素が必要。普段身につけている物、大切にしている物。警察犬に匂いを追わせる動作に近い。
「原風景って……三春へ行ったってこと?」
「行くつもりでお出かけになった、とは言えると思う。ただ、例えば駅にたどり着き、正しい行き先の電車に乗れたかどうか。そもそもそのつもりで出たけど、程なくして目的を忘れてしまったり」
「目的を失う?」
「思いついて行動に移してもそれを忘れてしまうんです。私たちだってたまにあるでしょ?何か目的があって机の前まで来て、あれ?何するんだっけ、ってな奴。それが出発してから起こるんだ。どこへ行くんだっけ。どこへ戻るんだっけ。そもそも何やってるんだろ。こうなってしまう」
なので、例えば三春へ先回りしても、そこで出会えるか判らない。
「どうしよう……」
平沢は力なくうつむき、ソファに崩れるように腰を下ろした。スポーツマンであり、日頃おちゃらけてクラスを笑わせる……うなだれたその姿は枯れてしぼんだ花のよう。
彼が、“子供は引っ込んで学校行け”“探しておくから”系のことを言われたのは容易に想像つく。そして実際、“八方手を尽くす”必要があり、組織的な連携が不可欠。
かと言って落ち着いて学校に行けるわけもなく。
「三春には普段どんなルートで?」
「新幹線で郡山(こおりやま)から汽車」
「キシャ?蒸気機関車なの?」
それは日本に居を移して数ヶ月という彼女ならではの質問。
「ああ、違う違う。それは昔の話で、今はそこの八高線(はちこうせん)と同じエンジンで動く奴」
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