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2021年2月

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -07-

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 要は授業を抜け出して悪さを働く中学生徒を見つけて報告する監視員。その手の生徒がいないという学校はないであろう。
「別に気にせずそのまま」
「え?」
 驚く平沢を尻目に、彼女はそのまま速度を緩めずスタスタ歩いて行く。
 もちろん、巡回監視員は制服二人を見つけるや、真っ直ぐに進路を取って向かってきた。
 この時、彼女は小さく数語呟いたのであるが、平沢が彼女の声を聞き取ったかは定かではない。
「こんにちは」
「はいこんにちは」
 彼女は会釈し、果たして監視員は笑顔でそう返し、普通にすれ違った。
 平沢は呆然。
「あの……」
「気にせず。コソコソするから疑われる。大義と正義は我らにあり」
「そういうもん?」
「そういうもん」
 住宅街を横切り、西端に達する。視界が開け、正面から左側は下り急斜面に沿って墓地、右側はさらに見上げる角度で続く崖で、土留めのコンクリート擁壁が陽光を反射してギラギラしている。
 その擁壁と墓地との間、斜面下へ向かい設置された長い階段を降りて行く。
 彼女はこの地に住んで半年もないが、ここへ来たのは初めてだ。
「ここを通ってるわけ?」
「走って上り下りしてんだ。いいトレーニングになってる」
「それすごい高負荷じゃない?」
 彼女は答え、背後から声が掛かる、と察した。
 事前に判る。それは予感というか、その人が自分たちに意識を向けたからそうと判った。
 平沢の叔父に当たる人物。“捜索”に馳せ参じたのは説明するまでもない。
「進。学校じゃなかったのか」
 彼と共通する低く響く声。彼は立ち止まり振り返る。
「あ。学校に相談したら事情を判ってくれてさ……」
「そちらは?」
 レムリアのこと。
「クラスメートの……」
「相原姫子と申します。准看護師ではありますが資格を持つので、多少お手伝いできるかと」
 手を膝前にしてぺこり。
「おお、例のお前が大好きな女の子か!」

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション-01-

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プロローグ

「汝、守りたい者はあるか」
 問う声があった。
 成人した、しかしまだ若い女の声だ。
 日本語で、肉声のように感ぜられたが、夢の中だと理絵子(りえこ)は認識している。しかしそこは意識だけで動く世界であるから、幽体離脱(アストラルプロジェクション)の状態との区別は難しい。幽体離脱の可能性の故は、その声の主を理絵子は知っており、相互に住んでいる時間と次元が異なる。
「家族と、友と、クラスメート」
 答えると、声の主の姿が浮かぶ。鋼の武装から金色の髪をなびかせ、こちらを見つめる馬上の麗人。
 北欧の伝説に名を残す戦女、アルヴィト。
 逢うのは二度目である。死神に襲われた際、時空を超えて助太刀に来てくれた。その際、必要に応じ助けを求めよ、と言ってくれた。
 そのアルヴィトが自分の夢に。余程の事態ということであろうが、その理由はすぐに判った。
 自分が絡んだ事件が先に起こった。エセ宗教家から友人を救い出すに際し、その宗教家の教会が爆発し、宗教家と周辺が死亡したのだ。
 それは巨大な罠だったと警告に来てくれたのだ。自分と、自分の大事な全てを破壊するため魔が仕組んだのだという。そして、それを“夢に直接”の故は、テレパシーや、類似の超常感覚による察知の防止。
「汝の意思は受け入れた。だがしかし、肉の身に収まっている者は逆に我らからは察知できぬ。これからの時制は防げるが、過去に属する既には防げぬ。戦いに備えよ。よろしいか」
「はい」
 理絵子は答えた。その事件の場において、ただでは済まぬと思っていたが、全面・全力で攻撃に来るというのか。
 超能力で攻撃される。SF・恐怖マンガそのものの世界。伝説級の魔族が戦いを挑んでくる。少し前の自分なら怖じ気づいていたかも知れぬ。なぜなら自分は“感覚”は持つが、念動力・サイコキネシスは持たぬ。
 しかし今は違う。知る力を持つ自分と、守る力を持つ友と、
 攻める力持つ“姉”がいる。
「心を閉じるな。それこそが罠だ。恐怖に負けず開いて居よ。ならば、私は常にこちらの側から汝が見える」
「ありがとうございます。どうぞその時はお力添えを」
「心得た」
 馬上の戦女は振り返って笑んで見せ、髪をたなびかせ馬にて去った。

(つづく)

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【予告】理絵子の夜話・次回について

個人向けホームページサービス全盛の頃に載せてた奴を移植してますが。

在庫尽きました。

なので、プロット的にストーリーざっと書いただけで肉付けしてない奴を展開しつつ出して行きます。

【理絵子の夜話】「サイキックアクション」(2/20開始・隔週土曜更新)

念動力戦闘。こういうの際限がなくなるパターンが多いのですがどうなることやら←おい作者

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -06-

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 彼の説明は要領を得なかったが、彼の思い描いた画像をつなぎ合わせるに、その昔、蒸気機関車が客車を牽引していた時代の名残で、旧国鉄時代から続く列車のことを“汽車”と呼ぶ年代であり、それに引きずられて彼も汽車と呼んでおり、列車そのものはJR八高線と同型のエンジン駆動の列車が走っていると理解した。まぁ鉄道の詳しいことはフィアンセに訊けば判ろう。
「おばあさまはこちらへ、東京へ遊びに来たことは何度もあるのね?」
「うん」
「じゃぁ、そのルートに沿って探してみましょうか。それとも既に」
「駅には警察から確認してもらってるはず。でも……」
 そういうレベルか。レムリアは少し落胆した。ハイテク日本じゃなかったのか?
 逆に言うとそれならそれで自分の方で別のアプローチがある。
「おばあさまの写真はお持ち?」
「家に行けば……」
「お借り出来ないかな。画像検索にかける。ビッグデータって奴」
「それって……」
 平沢は目を見開いた。前述の特殊な方法……空飛ぶ船で世界各地へ駆けつける。彼はその船を目撃したクラスの数少ない一人。その船の電子能力を使う。
「わかった。ありがとう。ちょっと親に電話してみる……あ、でも何て説明しよう」
「友達が協力してくれる、でいいと思うよ」
「わかった。……で、その、ありがとう」

「クラスメートの家族を探すので授業に参加しません」
 それは認めれば教員が組織に咎められ、逆であれば生徒達から人でなし扱いされる。
 なので彼女らは、相談室を使い終わったとだけ告げて、そのまま黙って学校を出て来た。
「オレはいいけど……姫ちゃんは……」
「いいの。呼び出されるのはウチの親だし」
 以下、“レムリア案件”ということで彼女の名をレムリアと書く。
 中学校は丘の上、公園の向かい側にある。校舎を出て左へ折れ、その公園を右手に見ながら坂を下りる。
 住宅地が広がる。丘から続く高台を崩してひな壇状に開発したもの。彼女の家はその中程にあり、彼の家は横切って宅地の西端、さらに、
「お寺と墓地あるじゃん、その向こう」
 彼女は頷いた。自分の家の前を通り過ぎる。不思議な感覚。
 家の前の通りの向こう、ひな壇の奥へ続く“メインストリート”とのT字の交差点におばさんの二人組。
 二人とも左腕にグリーンの腕章を付けている。
 平沢が舌打ち。
「巡回だよ。どうする?」

(つづく)

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【理絵子の夜話】聞こえること見えること-04・終-

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「ありがとう」
 理絵子は彼の所へ戻り、マフラーを受け取って言った。
「あの……」
 彼は何か言いかけた。が、そのまま何も言わず、理絵子に渡したマフラーから手を離し、背を向けて走り出した。
 翌日、学校に来た理絵子の机に大振りな封筒一つ。開けると楽譜。
「おおっ!りえぼーがまたもらってるぞ!」
「誰から?誰から?え?…楽譜じゃん」
 集まってくる女子生徒達。そのうちの一人が楽譜のタイトルを読んだ。
「Josef Strauss、op.28 Sylphide - Polka-Francaise」
「わっかんないよ」
「ヨゼフ=シュトラウス、作品28。フランス風ポルカ、“シルフィード”」
「しるふぃーど?」
「風の妖精のこと」
「へー。妖精。……おっと妖精と来たか」
「何かゴーヂャスだね。コクる手段としては斬新でないかい?」
「で、これどうしろって?妖精のようなあんたに妖精のように弾けと要請?」
「あたしバイエルも弾けませんが何か。それにそれ面白くないし」
 理絵子は彼女たちに言い、さっさと楽譜をしまった。
 差出人もその意図も判っている。少なくとも彼女たちが思っているようなことではない。
「返事するの?」
 そう言ったのは、良く理絵子に相談を持ちかけるメガネの彼女。心配なほど大人しい娘。
 理絵子はちょっと考えて。
「シューマン、作品15の7」
 とだけ言い、彼女たちを残して、名簿を取りに職員室へ向かった。この曲ならどこぞの少女マンガに出ていたので、こういう言い方が出来る。
「え?何それ?」
「子どもの情景?………あ、トロイメライか」
「トロイメライ?」
「“夢”」
「うわ、きっつ~」
 そういう意味じゃないって。

聞こえること見えること/終

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