【理絵子の夜話】聞こえること見えること-04・終-
「ありがとう」
理絵子は彼の所へ戻り、マフラーを受け取って言った。
「あの……」
彼は何か言いかけた。が、そのまま何も言わず、理絵子に渡したマフラーから手を離し、背を向けて走り出した。
翌日、学校に来た理絵子の机に大振りな封筒一つ。開けると楽譜。
「おおっ!りえぼーがまたもらってるぞ!」
「誰から?誰から?え?…楽譜じゃん」
集まってくる女子生徒達。そのうちの一人が楽譜のタイトルを読んだ。
「Josef Strauss、op.28 Sylphide - Polka-Francaise」
「わっかんないよ」
「ヨゼフ=シュトラウス、作品28。フランス風ポルカ、“シルフィード”」
「しるふぃーど?」
「風の妖精のこと」
「へー。妖精。……おっと妖精と来たか」
「何かゴーヂャスだね。コクる手段としては斬新でないかい?」
「で、これどうしろって?妖精のようなあんたに妖精のように弾けと要請?」
「あたしバイエルも弾けませんが何か。それにそれ面白くないし」
理絵子は彼女たちに言い、さっさと楽譜をしまった。
差出人もその意図も判っている。少なくとも彼女たちが思っているようなことではない。
「返事するの?」
そう言ったのは、良く理絵子に相談を持ちかけるメガネの彼女。心配なほど大人しい娘。
理絵子はちょっと考えて。
「シューマン、作品15の7」
とだけ言い、彼女たちを残して、名簿を取りに職員室へ向かった。この曲ならどこぞの少女マンガに出ていたので、こういう言い方が出来る。
「え?何それ?」
「子どもの情景?………あ、トロイメライか」
「トロイメライ?」
「“夢”」
「うわ、きっつ~」
そういう意味じゃないって。
聞こえること見えること/終
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