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2021年3月

2021年3月24日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -09-

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「スキャンしても?」
「今はもっとしわくちゃだよ」
「補正推定ができます。後で今の年齢をお伺いします」
 冷徹で不躾だと思いつつ。ウェストポーチから取り出す軍用トランシーバみたいな外観の衛星携帯電話。アダプタで接続するサイコロみたいなカメラ。
 アルバムの幸せと真逆な、角ばって黒い機器たち。
 衛星電話なので空が見える場所じゃないと使えない。窓際へ持って行って通信確立。送信待ち(Waiting...)と文字が出てカメラで撮影。
 送信している間に写真に手のひらで触れる。サイコメトリ(Psychometry)。それは込められた思いを事後読み出す能力と言えば適切か。
「体が大きいから運動が得意かな……大学に行って苦労しないでほしいな……」
 彼女は拾った思いが勝手に口から出ていることに気づいていない。それは祝福のきらめきのゆえに彼女の自制を超えて飛び出してしまった。
 気が付く。この写真に「おじいちゃん」は写っていない。
「この時、おじいさまは?」
 この質問には叔父殿が応じた。
「もう、入院してたな。……心臓だった」
 おばあちゃんの思いを探す。
“私だけ写っても”
 応じた内容。および、これが“トリガである”という感覚。
 行く末を知りたくてアルバムを数葉めくるが、「おじいちゃん」と映った写真は出てこない。
 あったが、遺影とともに。
“会わせたかった”
 彼女は、アルバムを、そっと閉じた。
「姫ちゃんどした?」
 彼女の頬伝うきらめきにうろたえる平沢。
「気にしないで……あなたは、祝福と期待に包まれて育ったんだねって。ええと、おばあさまが普段過ごされてる部屋はどちら?常用されてる薬とか確認したい」
 振り払って立ち上がる。なお彼女の発言には一つ嘘がある。本当に欲しいのは“現在のおばあさまの感情”である。
「ああ、なるほど。ええとこちらですどうぞ」
 叔父殿が手のひらで示す。いったん廊下へ出、少し歩くと右側へ折れている。奥へ進んで階段だがそこではなく、左手、襖を開く。
 ガタガタと滑りの悪い襖を男の力任せで開けると和箪笥と茶箪笥が向かい合う和室。ちょっと埃っぽい。
“心ここにあらず”
 それは第一印象。あまり、この部屋に対して“自室”という感情をお持ちでない。
 と、ブスブス……という感じのオーディオ的なノイズ。

(つづく)

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2021年3月20日 (土)

【理絵子の夜話】サイキックアクション-03-

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 挑戦の意思と殺意。
〈しくじった〉
〈いえ〉
 少なくも大剣はそれを人格統合体として存在することを阻止した。
〈理絵ちゃん!〉
 呼ぶ声に振り返る。もう一人の霊的な友、高千穂登与(たかちほとよ)という。
 テレパシー使い。
 振り返った理絵子の視界に映じたのは、庭で歯を剥いてシャーと威嚇する……ネコの姿であった。近所に居着くでっぷりと大柄な虎縞の野良猫、トラと呼ばれる。庭でたまに糞をする。
 憑依されているのであった。それは分裂してその程度になったのと同時に、理絵子に挑戦しているのだ。憎たらしいとはいえネコが殺せるか。
〈任せて〉
 理絵子は声に出さず友二人に答えた。答えは持っている。
 トラが異常な跳躍力を発揮して庭から飛びかかってくる。引っ掻こうと出された前足を、首傾けて数ミリで避ける。
 トラが座敷に飛び降りる。
 しかしその時理絵子は元の場所にいない。
 その代わり、右手にハサミを持ってトラの背後にいる。ハサミは美砂に念力で取り寄せてもらった。自分の意識は読めるようだが、友が何をするかまでは見てはいないだろう……斯くて然り。
 トラ、に憑依した者がそれと気付いたとき、理絵子はトラのひげを切り落とした。
 ネコとしての本能的な行動意欲が減退する。分裂して低下した能力の故に、ネコ本来の能力に依存し、霊はそれ以上のことはできない。
 トラが突如バタリと倒れる。失神したのであり、憑依者が抜け出したのだ。そこへ霊界から剣が伸びて来てぶすりと刺してしまう。
 剣が力として吸い取る。まるでヒキガエルを食うヤマカガシが、その毒を我が物とするかのように。
 この一連の動きを見ていて。
 驚愕を有した心理が畳の下一面に広がっていると理絵子は知った。
 “一つの意識”ではない。
 そしてそれが来る。
 床下から庭へ黒い泥水のような物が流れだし、波打ちながら広がり、その泥水が一気にバラバラになり、理絵子と、姉と、友へ、一散にぴょんぴょん跳びかかる。
 夥しい数のコオロギの仲間、カマドウマ。
 美砂が腕を下から上へ振り上げた。念動力が発動され、太鼓をたたくようなドンという音が響き、家の中から暴風が生じ、引きずられるようにカマドウマがざあっと空へ持って行かれた。
 しかし畳の隙間から止めどなく泥水が染みだし、次々にカマドウマに形象を変えて這い上がってくる。

(つづく)

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2021年3月10日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -08-

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「ちょ……」
 果たして平沢進は目で見てわかるほどに赤くなったのだが、既に告白はされているので驚くまでもなく。
 ちょっとだけ笑みを見せて、でもそこまで。
「不躾で申し訳ありません。ただ、お話を伺って黙っていられず、無理なお願いと思いつつもお邪魔させていただくことにいしました。いきなりで申し訳ありませんが、おばあさまのお写真をお借りできないでしょうか。私が所属するチームの監視カメラ照合システムに取り込ませたいのですが……」
 叔父殿は目を見開いた。
「そんなことできるんですか!?」
「ええ、007(ぜろぜろせぶん)の世界が今は現実です」
 彼女は1960年代から続く著名なスパイ・シリーズ映画の名前を挙げた。
 その方がこまごま説明するよりきっと理解が早い。
「おお、それはそれは。警察に渡しましたが……多分まだ残りがあるはず。こちらどうぞ」
 瓦葺の2階屋である。彼女の表現パターンにはない言葉だが、昭和の風情と書けば手っ取り早い。土壁に木枠の窓。
 玄関は開き戸。鍵を挿して何回か、くるくるとねじのように回す。
 カラカラ開くと玉砂利を固めた三和土。彼女はいつぞや訪れた愛知・常滑(とこなめ)の陶芸家工房を思い出した。
「失礼いたします」
 靴を脱いで、屋内へあがって、向きを変えて正座して、靴を外向きに揃える。
「お前にはない部分だな、進」
「うるせぇよ。えーっと、こっち。うわひでぇな」
 廊下を少し行って障子の部屋に招かれたが、そこは畳の上にいくつものアルバムが広げてある。警察への依頼にあたり、慌てて写真を探したのだと判る。
「ここから探しても……」
「ええ、ご自由に。お茶を入れますわ。進、急須の葉っぱを変えろ」
「判ったよ、親父って何か言ってた?」
 野太い声同士の会話と、やりつけない洗い場の物音。がちゃん、あぶねー。
 アルバム数冊をまずは見渡す。殆ど平沢進本人と家族写真であり、“おばあちゃんといっしょ”はあまり多くないと判ぜられる。
 2冊重なったその下、裏返しになった緑の表紙。
 文字が刺繍されている“すすむくんの生い立ち”
「姫ちゃんごめん、お湯を沸かしてるからちょっと待……」
 背後に来た彼が、彼女の手にしたアルバムを見て固まったことが判った。
「見られるの恥ずかしいなら……開かずにおきますよ」
 振り返らずに。幼い自分を人に見られるのが恥ずかしいとはよく聞く年頃。
「いや……そこにおばあちゃんの写真絶対あるから。ちょっと若いけど」
 刺繍の表紙をめくると、それはお腹の中の超音波エコーから始まる。祝福され、喜びとともに成長が記録され。
 おくるみの姿、ちいさなてのひら。
 家族写真。そこに「おばあちゃん」の姿があった。
 和服姿、白髪で結い上げてあり、優しそうな笑顔に眼鏡。若干の寂寥。

(つづく)

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2021年3月 6日 (土)

【理絵子の夜話】サイキックアクション-02-

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 玄関呼び鈴チャイムがピンポン。
「はーい」
「私でしょ」
 母親の声を遮り、理絵子は2階から階段を降り始め。
 気付く。
「伏せて!」
 理絵子は残り数段を駆け下り、1階廊下に立ってこちらを見ている母親の身体を引き倒した。
 パン、パンと乾いた、かんしゃく玉の破裂に似た音がし、玄関ドアと台所からわずかなタイムラグを持ってバシ、バシ、と鋭い音が出る。
 銃弾である。
 護身の真言を唱えようとするが不要と判ずる。相手は庭へ動いている。その様が手に取るように判る。が、何も出来ない。
 否。
〈理絵ちゃん任せて〉
 庭へ走り込む拳銃片手の目の前に、陽光輝く天から突如、ブレザーの制服を着た“姉”がふわりと降り立つ。
 その姿と言動から理絵子が“みさねーちゃん”と呼んでいる娘。
 本橋美砂(もとはしみさ)。17歳。念力使い。
 降りて来ただけで拳銃片手の私服警官が透明な張り手を食らったように突き飛ばされる。天からふわりと降りて来たと書いた……彼女は弘法大師空海の伝説よろしく空を飛んできた。念力の分類用語で空中浮揚(レビテーション)とか言う。
 だが、そんな分類、どうでもいい。
 私服警官が庭先にゴロンと転がり、動かなくなる。
〈そこにいるぞ!〉
 声だけ。アルヴィトであった。私服警官は憑依され操られており、前後不覚に伴って憑依の主体が中から出てくる。
 人型のような“もや”が陽光降り注ぐ庭先で超視覚に映じた。
〈見てはならん。罠だ〉
 人型の向こう、超視覚野に白馬のアルヴィトが出現するや、腰の大剣を抜きながら振るった。
 大剣がもやを切り裂く。割れた水風船のように、飛び散る水しぶきのように、もやの構成要素が四散する。
 アルヴィトの表情に失敗が見て取れた。
 それを本来の目的とする罠だったのだ。もやの正体は個々の怨念が集合してできあがった一種のゲシュタルト。それが多数の霊体に分裂した。
 多数が同時に具象化するのを阻止することはできまい。

(つづく)

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