【理絵子の夜話】サイキックアクション-03-
挑戦の意思と殺意。
〈しくじった〉
〈いえ〉
少なくも大剣はそれを人格統合体として存在することを阻止した。
〈理絵ちゃん!〉
呼ぶ声に振り返る。もう一人の霊的な友、高千穂登与(たかちほとよ)という。
テレパシー使い。
振り返った理絵子の視界に映じたのは、庭で歯を剥いてシャーと威嚇する……ネコの姿であった。近所に居着くでっぷりと大柄な虎縞の野良猫、トラと呼ばれる。庭でたまに糞をする。
憑依されているのであった。それは分裂してその程度になったのと同時に、理絵子に挑戦しているのだ。憎たらしいとはいえネコが殺せるか。
〈任せて〉
理絵子は声に出さず友二人に答えた。答えは持っている。
トラが異常な跳躍力を発揮して庭から飛びかかってくる。引っ掻こうと出された前足を、首傾けて数ミリで避ける。
トラが座敷に飛び降りる。
しかしその時理絵子は元の場所にいない。
その代わり、右手にハサミを持ってトラの背後にいる。ハサミは美砂に念力で取り寄せてもらった。自分の意識は読めるようだが、友が何をするかまでは見てはいないだろう……斯くて然り。
トラ、に憑依した者がそれと気付いたとき、理絵子はトラのひげを切り落とした。
ネコとしての本能的な行動意欲が減退する。分裂して低下した能力の故に、ネコ本来の能力に依存し、霊はそれ以上のことはできない。
トラが突如バタリと倒れる。失神したのであり、憑依者が抜け出したのだ。そこへ霊界から剣が伸びて来てぶすりと刺してしまう。
剣が力として吸い取る。まるでヒキガエルを食うヤマカガシが、その毒を我が物とするかのように。
この一連の動きを見ていて。
驚愕を有した心理が畳の下一面に広がっていると理絵子は知った。
“一つの意識”ではない。
そしてそれが来る。
床下から庭へ黒い泥水のような物が流れだし、波打ちながら広がり、その泥水が一気にバラバラになり、理絵子と、姉と、友へ、一散にぴょんぴょん跳びかかる。
夥しい数のコオロギの仲間、カマドウマ。
美砂が腕を下から上へ振り上げた。念動力が発動され、太鼓をたたくようなドンという音が響き、家の中から暴風が生じ、引きずられるようにカマドウマがざあっと空へ持って行かれた。
しかし畳の隙間から止めどなく泥水が染みだし、次々にカマドウマに形象を変えて這い上がってくる。
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