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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -10-

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「何の音だ?」
 超感覚を持っておるわけだが、それとの相乗効果か視覚聴覚は鋭い方。
「あれですね。ラジオですか」
 彼女は茶箪笥の上に置かれた手のひらサイズのラジオを指さした。くすんだ銀色で所々へこみも見られる外観。色褪せたソニーのロゴ。
 何十年も前の製品とみられる。ボリュームと周波数チューニングがそれぞれダイヤル式で、周波数表示の上を矢印が動く構造。
 示唆。この機械は、重要。
「電源が入りっぱなしなのでは……」
 手にすると……それは、おじいさまのものと判ずる。チューニングダイヤルを少し動かすとクラシック音楽が流れた。
 後年、体調を崩して臥せっていたおじいさまは、ずっとこれを聞いてた。病状も手伝い、次第に視覚聴覚が失われて行く中で、手の感覚だけで操作することができ、いつもと同じ声を聞いていた。それで安心できた。
 そして、形見になった。
 愛するものを失った心の彷徨。
「これらの調度品は、福島から運び込まれたのですね」
 ぐるり見回す。照明はドーナツ型の蛍光灯でスイッチは引きひも。
「ええ、ここは元々僕が下宿させてもらってて、勤めるようになってから空き部屋で。親父が死んだあと、お袋に来てもらおうと部屋の中のものを持ち込みました」
 綺麗に畳まれた布団と、古いつくりの鏡台。おじいさまの写真とご位牌。
「おじいさまは……」
「だから死んじゃ……」
「違う、仏壇という意味かね?それはさすがに大きすぎるので位牌だけという次第……そのせいかね?」
 平沢進の発言を遮って叔父殿が尋ね、身を乗り出すように彼女を見て目を見開く。
 彼女は弱く首を左右に振る。なんだろう、ここにいて強く感じるのはひたすらな空虚だ。サイコメトリが作用しない。どんな思いでここにいたのか判るような、思考の痕跡を残していない。“心ここにあらず”……これほどのものとは。
「立ち入ったことをお伺いしますが」
「なんでしょう」
「おばあさまに関して、脳や心の状態について医師の診断を受けたことは?」
「要はボケとるか?ということだね。要支援の認定はされたが要介護ではないよ。MRIの診断も年齢相応だが認知機能に問題はない」
「ここ数日の状況は?食欲や、普段することをしなかったとか」
「どうかな。元々食が細いしなぁ。ケアマネさんから何か聞いてるか?」
 平沢進は首を左右に振った。
「いや、特に」
 そうですか……彼女は頷いた。現時点、彼女の判断は“テレパシーのルートは閉ざされた”である。

(つづく)

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