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2021年5月

【理絵子の夜話】サイキックアクション -08-

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 呪文唱えてもたらされた示唆は意外なものであった。
 が、天の命であればそうと応じる。
「楽になりたい?」
 理絵子はしゃがみ込み、迷子の幼子に対するように、小さな影と化したクリュサオールへ問いかけた。
 すべからくその場の女性達は驚いた。しかし、すぐに、まずアルヴィトが番えた弓の弦を緩め、続いて美砂と登与が切っ先を下ろす。
 怒り続けるにもエネルギがいるのだ。精神的疲労という奴だ。
 大日如来のビジョンを送ってやる。太陽の化身、沸き上がる穏和と温もり。
 そこに、ゆだねていれば、いい。
「怒りとか、憎しみとか、それは、後付け」
 理絵子は言った。
「嫉妬はあるかもね。あれいいな、だけどどうして自分には……ただそれは、多くの場合、努力不足」
 クリュサオールは鋭く反応した。努力不足……自己否定に対し怒りを示したのだ。図星である。
 だが、それで自分を攻撃してくるか、というとそうでもない、理絵子は判っていた。
 “怒り狂う必要の無い安寧”のイメージを理絵子は送り続けている。それがクリュサオールの心動かしていることを把握している。
 “心”動かす力は“心”にしかないのだ。
 しかし。

-騙されるな!

 声があり、剣の体をなしたクリュサオールは男の手に持たれた形でそこにあった。
 先ほどのヒゲ男である。しかも巨大だ。陰部が人体よりも大きく性的に興奮した様相を呈している。刹那の間に出現した。
 殺人行為に性的興奮を抱く倒錯者を思わせた。ロリコンにしてネクロフィリア。
 変態の極北が擬人化した姿であった。
 アルヴィトが即座に矢を射たが、性的巨人はそれをたやすく手のひらで退けた。
 性器はヘビの様相と挙動を見せた。自在に操りたい……男性権化の結晶と言えた。同時に、女性心理にとっては最高の拒否対象。根源的恐怖が存在し、そこを揺さぶられると感じる。ちなみに男性心理の結晶としてギリシャ神話のゼウスが知られる。そこで以下この者を魔神ゼウスと称する。
 比して美砂のシールドバリアが強い。それは心の頼りどころ。
 何か心理に入ってこようとし、理絵子はそれを阻止する。見せたくないものを見せようとしていることは明白。
〈私たちの“パターン”をクリュサオールから読み取った〉
 登与が言った。つまり、“先を読まれる”。
 再びの刹那であった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -13-

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 駅までの10分ほどが異様に長い。あと少し、のところで信号に捕まり、その向こう、高架線路を走り出す銀色の電車。
「ああ、特快(とっかい・特別快速のこと)行っちゃったねぇ。すいません」
 それは時間ロスを示す。しかし、運転手氏が謝ることではない。
「いえ、お気になさらず」
 青になり発進し、そのわずかな距離も可能な限り加速して、駅前広場、車寄せに止まる。
 平沢が財布をガサゴソしている間にクレジットカードでチェック。暗証番号でOK。
「はい確かに。ご無事を祈ります。何か急ぎのタクシー必要でしたらこちらお電話ください」
 運転手氏はプリントアウトされた領収書と名刺をくれた。
 彼女はそこで初めて運転手氏の顔を見返し、日焼け顔の中年男性と知る。
 頼んでおいて顔も見ないとか少し失礼だった。
「ありがとうございました。助かりました」
 笑顔で言ってドアを開けてもらう。
「えっと……お金は……」
 平沢がお札片手にキョトン。
「クレジットカードで切りました。お礼言って」
「お、おう。あ、ありがとうございました」
「いえいえ」
 降り立つ。走り出すタクシーを平沢が茫然と見送る。
「姫ちゃんすげえ……」
「現金は節約すべき。まずこの駅で係の人に訊いてみましょう」
「おう」
 我に返ったように平沢が歩き出す。駅は高架線だが建屋は地上だ。レンガの橋脚で支えられた線路のガードをくぐると、自動改札機が並ぶ様が見え、その左脇、対面販売用“みどりの窓口”の看板あり。
 近づいて中をのぞき込むと駅員が身体をひねった。
「はい、どちらまで」
「すいません、実は人を探しています。こういうおばあちゃんが福島までの切符を買いませんでしたか?」
 画像を見せる。すると窓口係員の若い男性は困ったように。
「さっき警察に聞かれた件かな?だったら、ないなぁ。済まんけど」
「そうですか……」
 食い下がっても仕方ないので一旦窓口を離れる。
 ここへ来ていない?
 ここを通ってない?
 間違っている?
 自動改札機に触れてみる。思いは残っていないか。
“ベクトル”を感じようとしてみる。それは予知予感を得ようとする行為に近いのかも知れぬ。方向性のある“希求”は無いか。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -07-

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 アルヴィトの手に無からスッと弓が浮かび上がる。矢の代わりに剣をつがえる。
 弓が長大化する。馬上から地上まで達しようかという大きさとなり、対応して高さ方向にも大きくなる。
 合わせて4メートルにもなろうか、長大な弓の弦を引き、アルヴィトは何の迷いもなく放った。
 剣はびょうと音を立て風を起こして飛び出し、光となって走った。本橋美砂のプロペラと何ら干渉すること無く突き抜け、剣体と化したクリュサオールに正面から突き当たる。
 剣と剣の正面衝突。
 金色の光の球が出現した。
 電気の短絡アークそのものを思わせた。
 但し、生きている。
 目を射る光の塊……肉の身を持つ3人の娘に対する攻撃。
「これは私!」
 言って、動いたのは登与であった。彼女に啓示が降りたと知る。
 フェンシングのそれの如き細い剣を天空に向けて一閃。
 何か構造が変わったと理絵子は理解した。
 一転、暗渠になり、登与の突いた一点は光る穴と化した。
「ピンホール……」
 美砂の認識に理絵子は後ろを向いた。
 プラネタリウムの円弧画面のように、投影された、影。
 小さな、小さな、人影。
 アルヴィトの弓が今度は細い細い金の糸に変わっている。それは彼女の髪の毛を伸ばしたとした方が視覚的には似合った。
「虚像」
「でしょう。私たちが相手にしていたのはこの小さいのが投影していた幻」
「悪意はちっぽけなきっかけが増幅して行く……」
「その権化でしょう……にしては」
 これで終わりとは思われない。
 友や友人……守られている……彼らの攻撃は自分たちに収斂している。
 ……破裂する。それは登与が“突いた”ことで出現した球体の袋のこと。そこに穴が一つ開き、ピンホールの役目を果たした。
 その“袋”が。
「破裂させてはいけない!」
 癒やされない憎悪……それがアルヴィトの剣によって巨大に増幅されて出て来る。
 時空を割る。
 すなわち、この世に悪が満ちる。それが目的!?
 全知全能よ我に力を。
 臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前(りん・びょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん)!

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -12-

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「すげぇ。そっくりだ」
 野太い声がハーモニーで反応。満場一致というところか。
「これで駅員さんとか直接聞いて回ろうかと。郡山ではお父様、あと、このご近所も探してらっしゃるのでしょうか?それはそのままお続け下さい」
 彼女は2人を交互に見ながら言った。
「おじさん、俺が姫……相原さんに同行するから。やれるだけのことやろうぜ。親には駅まで歩いて探しに行ったとかテキトーぶっこいてよ」
 叔父殿は折れた。
「オーケー判った。ただ、時々連絡をよこせ……お嬢さんのそれは何か凄いが携帯なんだな。進は俺の番号知ってたな」
「ええそうです。状況変化あればご連絡します」
「じゃぁ、頼むわ。すまんが。あ、お金が要るな」
 叔父殿は胸の内ポケットに手を伸ばす。移動に要する費用であろう。彼女は断ろうとしたが、この状況で“赤の他人”に足代出させるというのは叔父殿も気が引けるか。
「三春まで行けるはずだ」
 叔父殿は財布から1万円札を数葉、わしづかみという感じで取り出し、平沢進に持たせた。
「……大金過ぎて怖え」
「しっかり財布に入れて持ってけ」
「おう。……姫、相原さんちょっと待ってて。財布取ってくる」
 家の前で叔父殿と分かれ、バス停に向かう。それは“軌跡”をたどっているという示唆は受ける。が、思考の足跡は感じない。客観的な結論は“何も考えず駅への道を行った”だが、そんなことあるのだろうか。やはり認知機能か。
 我がテレパシーかくも無力か
 バス停の時刻表を覗く。バスは20分間隔で次の便は15分後だが、持て余すので通りがかったタクシーに手を上げる。
「子供じゃ止まってくれ……たよ」
 二人、中学校の制服姿である。普通、そんな二人に止まってはくれないだろう。
 もちろん、彼女が特殊能力で小細工している。
 後席ドアが開いて乗り込み、駅まで依頼。
「お急ぎのようですね」
「ええ、親がちょっと……」
 大嘘、でもあるまい。
「承りました」
 少し荒い気もするが速度上げ目で走ってくれる。
 走りながら思考の残り香を探す。どんな思いでこの道を行かれたか。
 なのだが。
 引き続き何も感じない。この道や風景と紐づけされた“思い”は存在していない。
 それは、もっと集中する何かがあったのか。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -06-

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 それは理絵子にギリシャ神話の一場面を思い出させた。見ただけで石に変える魔女メデューサの退治である。
 同様に黒い顔が雄叫びを発し、その首が剣を打ち込まれた反動で仰向けの角度で動いて切断され、上の方へ弾け飛んに、泡のように変質して消え。
 そして、噴水の如く噴き出した“血”が何かに変わった。
〈大量のサソリになるんじゃ……〉
 と、登与。対し理絵子が得た示唆。
〈クリュサオール〉
 メデューサの血から生まれたとされる物……天馬ペガサス、サソリなど毒生物、そして姿と形の伝承無き怪物、クリュサオール。それは黄金の剣を持つという。
 果たしてそこにはケンタウロスを思わせる半人半馬の怪物があった。その手には金色の剣があった。
 対し、馬の蹄。
 戦女アルヴィトである。人間世界に白馬を伴い具象化した。
〈汝ら、我が髪に命与えよ〉
 それは以前、“お守り”としてもらった彼女の黄金髪の毛ひと束。理絵子は1本ずつ友と家族に持たせている。
 自分も一本常に持っている。りぼんに織り込んでいるが、そのりぼんを手にしたら白い煙のような剣に変じた。
 “意のままに”動く剣だと示唆が来た。登与のそれはフェンシングの剣を思わせ、本橋美砂は水晶の両剣だ。すなわち柄の前後双方に水晶で出来た刃が伸びている。
 クリュサオールが変化する。半人半馬の人の部分がサソリに変わり、その10本の手足は剣の態様。
 数で勝負か。
 アルヴィトが馬上から剣を振るう。切っ先が複数のナイフに分裂し、クリュサオールの手足剣先に拮抗する。
 すると……クリュサオールはそれ自身1本の大剣と化した。
〈魔剣か〉
 アルヴィトの呟き。魂宿した生きた剣……神話・SFでままある設定。
 そこに立ちはだかったのは本橋美砂である。念動を発揮し、両剣プロペラのように回して“面”の盾を形成。クリスタル・イージスという概念を受信。
 これは悪意の権化だ……クリュサオールの正体について、そんな示唆が来た。かつて一戦交えた死神とまた別物だ。目的は魂を屈服させること、恐怖と敗北をもたらせ。
 クリュサオールは手出しをしない。その理由を理絵子は知る。端的には本橋美砂の水晶イージスを突破できないからであるが、事態が膠着したわけではない。
 美砂の念力衰えてプロペラ威力下がることを待っている。
 理絵子はアルヴィトの傍らに立った。
 意志にする必要すら無い。超能力を意図して行使している理絵子にはマイクロ秒の単位で視界を解像できる。

(つづく)

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