« 2021年5月 | トップページ | 2021年7月 »

2021年6月

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -16-

←前へ次へ→

 総合するに“突然、訳が分からなくなる”……譫妄(せんもう)と呼ばれる状態に入る可能性は感じないが。
 病気のほか、夢や薬の副作用、手術の麻酔でもなったりするとも聞く。
……否定しきれない。そしてその状態で元の住まいに向かったのだとすれば。
 電車は神田で北へ向かう新幹線を含む他の路線群と合流し、そこから自分たちの線路だけ高架線路からさらに一段高い高架へ駆けあがって終着、東京。
 電車が止まり、ドアが開くと、大都会の空気と騒音。
 ホームに降り立つ。で。
 思わず立ち止まる。感じないのだ。思いを何も。
 テレパシー感度が落ちてる?否否、傍ら平沢の不安と、次どうすれば、という困惑の念を強く感じる。あ、後ろに人が邪魔ですね。ホームの真ん中まで移動して人の流れを避ける。
 どうすればいい。とりあえず。
「新幹線の乗り場へ行ってみましょう」
 確証があるわけではない。というか、ここまで来て他に出来ることはない。
「おう……」
 平沢が応じる。とはいえ自分から足が出ない。掌握している駅ではないからだ。ホームの上の案内板は“新幹線↓”要するにこのホームからコンコースに降りろ。そりゃそうだ。
 情報が欲しいのはその先だ。
1_20210629224501

https://www.jreast.co.jp/estation/stations/1039.html
「判る?」
「東北新幹線だろ。大丈夫だよ。行ったことあるから」
 平沢の後ろをついて行く。2段高架の上の階層から、途中に踊り場区間がある長く不思議なエスカレータで降りてコンコース。案内表示は20から23番線だとしてある。案内表示の「東北新幹線」を頼りにして歩く。東京駅を西端から東端まで横切る形。
 さて新幹線というのは特急列車であるから、乗車には乗車券と特急券を必要とし、両者揃って持っているかを確認する専用の改札がある。
 東京駅における東北新幹線のそうした改札は2か所。ともに“みどりの窓口”を傍らに備える。
 どちらも応じた行列。ロープでジグザグに仕切ってあり、人々がじっと待っている。彼女は長くアムステルダムで暮らしており、同様な高速列車“タリス(Thalys)”を知るが、チケットはネット予約の電子メールをプリントアウトすればよく、駅の改札もないので、この光景には違和感を覚える。割り込んで尋ねる?
 誰か係の……と見回したら、青い制服で首元にスカーフを巻いた、コンシェルジュのお姉さんがいたので、訊くだけ訊いてみることにする。
「すいません」
「はい」
 にっこり。

(つづく)

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】サイキックアクション -10-

←前へ次へ→

-我が選択は理絵子なり

 果たして魔剣クリュサオールは答えた。

-刃(やいば)有せぬ我が身は汝の剣身一部に能わず。されど理絵子に魔の動き伝える用はなすこと叶う。

「よかろう」
 果たしてアルヴィトは同意し、その剣を鞘に収め、唇の端に笑みを浮かべた。
「用あれば呼ばわれ。加勢する」
「ありがとうございます」
 アルヴィトは言い、元の簡素な衣を羽織った姿に戻り、馬上の人と化した。
 一鞭当てて異空間へ消える。この後理絵子が取ろうとしている行動を知った故。
〈クリュサオール〉
〈おそばに〉
〈導け。汝を我に差し向けた者の潜む場へ〉
〈恐れ多くも申し上げる。あの者は……〉
〈可否は私と仲間で決める。導け〉
〈……承った〉
「そばへ」
 やりとりを聞いた美砂が手招き。
 そこへ飛ぼうというのである。空中浮揚。彼女らは一カ所に固まった。
「感づかれて……」
「いない。私たちの思念を感じ取れていないはず。超能力ですべて分かると思っているから。私たちが消えたと思っているから」
「消した?」
「この子が毒を出してる。その毒に染まって届くから見分けがつかない」
 理絵子は柄だけのクリュサオールを握り直した。
「“デーモンコア”だな」
 美砂が言った。それはアメリカの研究所にあったプルトニウムの塊。一瞬でも取り扱いを誤ると核反応を起こして放射線を周囲にまき散らす。研究者が二人死んでいる。同様な心理的毒素の塊で、常人が相手にすれば気が狂う……そんな“魔物体”だと言うわけだ。
「私たちは明確に攻撃の意思を持ってるしね。それも毒の一部だし」
「行こうか」
 美砂が手を広げ、一行はすっと宙に舞い上がる。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -15-

←前へ次へ→

 滑り込んできた白い列車の“自由席”を探して乗り込む(※)。ドアは車端のデッキ部にあって、客室とは自動ドアで仕切られている。ドアの向こうを覗くと満席。
 他、幾人かの乗車客とともにデッキ部に立つことにする。ドアが閉まり、キシキシした機械音とともに列車は駅を離れる。
 カーブで身をくねらせ、本線に合流し、特別急行東京行き、とアナウンス。※未指定券制度導入前
「俺、初めて乗るぜJRの特急」
「そうなの?」
・私鉄とJRが並走、新宿や東京に出るには運賃の安い私鉄を使うことが多い
・JRの特急は東京まで乗っても1時間未満であり、特急料金が惜しい
・ほとんどは新宿止まりなので、尚のこと「わざわざ乗る」意味も理由もない
・反対方向甲府方面へ出かける際はクルマなのでやはり乗らない
 ちなみに発車してすぐは特急らしい加速を見せたが、間もなく速度が頭打ちのようになり、持て余して流すような走り方になった。それは前方に「特急以外」の列車が多く、追い抜くチャンスがないので、後ろから着いて行くようなダイヤになっているからだが、さておく。
 東京まで一定の時間と空間が持てたことは確かなので情報を集める。依頼した画像認識は現時点検出なし。全部は膨大な時間がかかるので新幹線乗り場を優先してもらった。3時間分で検出されず。
「東京駅にはお見えになってないみたい……」
「え……」
・私鉄とJRが並走、新宿や東京に出るには運賃の安い私鉄を使うことが多い
「このルートの場合、JRを全く使わず東京駅へ出られる?」
「うん、新宿から地下鉄に乗ればいいから……そっちかなぁ」
「検索依頼すればいいよ」
 私鉄の社名、地下鉄の路線名を聞いて追加の調査を依頼する。
 ただ、そも、そのルートを取ったのだろうか?
 JR一本に比して複雑すぎるのではないのか?
 テレパス無感応の説明は成り立つが。
 ともあれ東京駅へ行った方が良いようである。北帰行の結節点と考えられるからだ。画像検索とテレパシー検索の並走だ。
 30分弱、ダラダラ走ってビルの谷間に入ると、ゴトゴト揺れながら線路が分岐し、新宿に着く。二人が一旦ホームに降りてスペースを空ける要があるほど大量の下車があり、客席に空きも出たので移ることにする。動き出して更にのろのろ運転だ。
 さてこの先の車窓には見覚えがある。沿線の大学病院でちょっとお世話になったことがある。小児病棟とか遊びに行った。せっかくこの地に定住したのだからまた行こうか。
 高速道路、高層ビル。意外な緑。
 四谷に止まって下車客少し。それで車内の客はまばら。神田川に沿って東京まであと一息。
「おばあさまをこちらに引き取った後の大まかな変化を知りたい。健康状態を知ってる範囲で教えてください」
・転居2日後に体調を崩した。高熱と腹痛
・回復後はおおむね元気
・血圧と膝の持病有。近所で通う病院を決め、特に膝はリハビリ兼ねて毎日通院
「こちらで新たなお知り合いとかは?デイサービスとか使ってる?」
「知らない、というか聞いてないな。ごめん、親にお任せにしてる……」
「いいよ。それだけ判ってるだけでも大したものだよ。ありがと」

つづく

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】サイキックアクション -09-

←前へ次へ→

 同等に巨人化した戦女アルヴィトの姿がそこに雄々しくあった。
 アルヴィトは、着衣をはぎ取った。
 黄金の裸身。流麗な曲線で構成され、ふくよかで輝くような乳房。黄金比を持って構成された腰回りの脂肪のたわみ。
 男の目線であれば、そのまま、性器を見ようとしたであろう。
 だから。
 その目が陰部に向いた瞬間、本橋美砂がPKを使った。
 魔ゼウスの“心臓”に深々と突き立つ、クリュサオールの剣。
 魔ゼウスは、自分で、自分の心臓を刺した形。
 理絵子は知る。霊体とて意思を紡ぐなにがしかの“無ではない領域”であり、応じて、無への還元も生じうる。
 それはプラスとマイナスの衝突。すなわち中和。
〈クリュサオールはプラスへ転じた〉
 自分の言動によって。つまり、如来の天啓は理に叶っていた。
 でも待って。それってクリュサオールと魔ゼウスが対消滅……。
 肉の耳に聞こえぬ絶叫であった。
 安らかな死ではなく“滅亡”への断末魔であった。
 魔ゼウスがバラバラと拡散してゆく。無数の粒子に分かれるように見え、ガス体への昇華のようにも見えた。
 魔と、ここと、彼我の空間を隔てるためのエネルギに消費されると判じた。
 アルヴィトが、腕を伸ばした。
 クリュサオールの“柄”。
 魔が閉じられる。
 周囲は、闇の中ろうそくで照らされた部屋のようであった。
 アルヴィトの裸身がろうそくのように輝いてそう見えているのであった。彼女は人間のサイズに戻ってそこにあった。
「理絵子。“魔”だぞ。良いのか」
 柄だけのクリュサオール。根元にわずかに残った黒い刀身。
「我が懐刀にいたしたく。ならば我が身は貴殿威光の残照あらたかにて魔物ら逃げ出すが故」
「おもしろい。魔をおびき寄せる道具とするのか」
「ええ、元は忌み嫌われた故の魔への転身。彼が私で良いというのであれば」
「よろしい。クリュサオール、選択せよ。我とともにヴァルハラへ向かい、我が刀身にて更なる光と化すか、闇として理絵子の裡(うち)にあり、魔をだます手先となるか」
 アルヴィトは自らの剣を抜いて立て、その金色の光を煌めかせて見せた。
 理絵子は知った。アルヴィトの聖剣はそうした“浄化された魂”が集まって刀の形態をなしている。
 心は心でしか動かせない。応じて心だけで出来た剣なのだ。だから魔であれど“切れ味”を有する。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -14-

←前へ次へ→

 直接感じるものは無い。しかしただ、確信はある。
 東京へ行け。
 以上、平沢が見たのは、駅前をぐるぐる歩き、改札機を触り、そこで腕組みしながら目を閉じてゆっくりと首を西、北、東と動かす彼女。困ったような表情は常軌を逸していて理解しがたいから。
 斯くて彼女は目を見開き、光を蔵した瞳で彼を見た。
「東京駅へ行ってみましょう」
「え?……」
 平沢は眉根に困惑を載せて彼女を見返した。客観的に見て、ここに来たという証拠はないのだ。
 だがしかし。
「判ったよ。姫ちゃん信じるよ。姫ちゃんが嘘言ってるとは俺には思えない」
「ありがと……あ、電車来たんじゃない?」
 ゴーゴーという走行音を聞きながら、二人はICカードをかざして改札を抜け、階段を駆け上がる。
「そういやばあちゃん敬老パスで電車も乗ってるの思い出した」
 それは、平沢が自身を無理やり納得させているように、或いは後で言い訳できる材料を探しているようにも聞こえたが。
 その可能性はゼロではない。この“カードかざして改札チェック”は殆ど無意識に行えてしまう。
 オレンジのストライプを巻いた銀色の電車に乗り込む。平日10時過ぎであり、空席も目立つ。
「これ快速だから東京まで1時間だなぁ……立川(たちかわ)で青梅特快(おうめとっかい)でも接続してれば……」
 平沢がひとりごちる。東京の鉄道乗り継ぎにおいて、彼女は自分で考えたことはあまりない。相原学にくっついて歩いていれば最短・最速・最安価で目的地に連れて行ってもらえる。
 車掌のアナウンス。『まもなく立川です。特急列車通過待ち合わせをいたします。新宿・東京方面お急ぎの方は特急列車にお乗り換えください。特急列車のご利用には特急券が必要です……』
 東京へ急ぐなら。
「乗ろう」
 彼女は提案した。
「えっ?新宿東京までJRの特急なんか乗ったことねーよ。何百円か取られるんだぜ」
「お金の問題じゃないじゃん。使えってもらってるんだし、移動の時間は節約して、探す時間に使おうよ」
「……判った」
 快速電車は速度を緩め、ポイントを渡って待避線へ入り、ドアが開いて二人が下りると特急接近のアナウンス。

(つづく)

| | コメント (0)

« 2021年5月 | トップページ | 2021年7月 »